ケイト・スペード ニューヨークとジャック・スペードの商品を販売するケイト・スペード ジャパン(以下、ケイト・スペード)は2015年2月、DHLサプライチェーンとともに、新 物流システムの構築・稼働を目指す3年契約を締結した。

実店舗だけでなく、Eコマース全盛期と言える昨今。世界的にも人気を博すブランドが、物流システムの再構築において、どのようなことを重要視したのだろうか。

ケイト・スペード ジャパン 公式Webサイトイメージ

経営体制の一新で、新システム稼働が必要に

ケイト・スペード ニューヨークとは、日本でも20~30年代の若い女性を中心に人気を集めるファッションブランド。実店舗などを中心にファッションバッグや革小物などを扱うほか、Apple StoreではiPhoneケースも販売する。

日本での事業開始は2009年。当時、日本法人は、サンエー・インターナショナル社(現 : TSIホールディングス)と米Kate Spade LLC との合弁企業であったが、2012年11月、米Kate Spade LLCの100%子会社となった。

ケイト・スペード ジャパン コマーシャルオペレーション部 ディレクター 岩下佳正氏

「実は米本社が、複数ブランドを持つ企業の傘下から、ケイト・スペードブランドのみを扱う体制へ変更となりました。これにより日本法人も、お客様が米国で商品を購入するのと同じブランド体験を日本でも実現するため、米本社の100%子会社となりました」と振り返るのは、ケイト・スペード ジャパン コマーシャルオペレーション部にてディレクターを務める岩下佳正氏だ。

これに伴い、同社のERPを含めた全システムの刷新が決定。当然のことながら、物流システムも新しいものへ変更することとなり、2013年8月から新しい物流パートナーの選定を開始し、複数の企業から提案を受けた。その4カ月後となる2013年12月、DHLサプライチェーン(以下、DHL)を採用することが決まった。

KPIを設け、物流業務を定量的に評価

DHLと聞いて、黄色に赤い文字のロゴと「国際物流」を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし、国際物流はグループ企業の一部にすぎない。元は、ドイツで郵便事業を提供するDeutsche Post DHLからスタート。その下に、DHLエクスプレスの名で知られるディー・エイチ・エル・ジャパンや、国際航空・海上貨物のDHLグローバルフォワーディング、倉庫業務・国内発送を受け持つDHLサプライチェーンが属する。

DHLサプライチェーン 公式Webサイトイメージ

「日本で物流というと、努力と根性というイメージがありますが、私たちが目指すクライアント企業との関係は、定性的なものではなく、きちんと定量に基づいたものです。四半期ごとKPIに沿って成果を評価します」と説明するのは、DHLサプライチェーン コンシューマー&リテール事業本部にてジェネラルマネージャーを務める清水裕久氏だ。

ケイト・スペードの岩下氏も、お互いに高いパフォーマンスを出し合うために、Win Winの関係を構築することが好ましいと考えていたという。

「私たちのようなメーカー側と物流会社の関係は、主従関係になりがちです。しかし、主従関係ではケイト・スペードが望む物流システムの実現は難しいと感じていました。と言うのも、主従関係となれば、『なんとかもう少し頑張れ!』とこちらが命令をする立場になる。一方、受ける側は、そう言われることを見越し、余力となるバッファを残して仕事をするようになるでしょう。こういったバッファなしに、1つのチームになれるパートナーを必要としていました」(岩下氏)

DHLサプライチェーン コンシューマー&リテール事業本部 ジェネラルマネージャー 清水裕久氏

この関係を構築するため、DHLとしても、クライアント企業と共通のメジャーを持つようにしているという。例えば、ある量の入荷から出荷までの時間を5日間と決定し、それを99.8%で実行するという目標を契約するという具合だ。

「この場合、契約した量がコンテナ4本分であるのに対し、実際には5本のコンテナが届いていた――ということも起きるわけですが、予定量をオーバーしたコンテナ1本分は、契約の担保外ということになります。あらかじめ同じ数値を共有することで、予定外のコンテナ1本に対し、目標数値レベルを落として対応するのではなく、どうすればよくすることができるのか、前向きな検討を行うことができるようになるのです」(清水氏)

ECでは、倉庫での作業もブランドイメージに直結

数値目標のほか、ケイト・スペード側が重視したことは、ブランド製品の扱い方だ。当然のことながら換金性が高く、盗難といったトラブルも起こりがちなため、セキュリティが求められる。

加えて、ブランド製品は、そのブランドごとにリードタイム (生産・流通・開発などの現場で、工程に着手してから完成するまでの所要期間)が異なる。洋服に関しては、畳まれた状態ではなく、ハンガーにかかったまま倉庫に置かれるため、倉庫にハンガーレールが必要になるといった具合だ。

また、ケイト・スペードの商品として、洋服の割合はそれほど多くないものの、扱う際の検針作業は必須となる。検針とは、文字通り針の有無を確認する作業。洋服は、作業の途中でまち針を縫って作業を進めることになるが、検査を徹底しても針が洋服に残ってしまうことがある。

国内倉庫から発送するときが商品を担保する最後のチャンスだ。DHLでは、熟練経験者がX線検針器を使って全品チェックするという。セキュリティについても徹底しており、倉庫へ出入りする際は作業者のボディチェックを行うほか、啓蒙活動なども実施する。

「これまでの商品事例として、例えば、機密性の高い "治験薬" もありました。これは、開発から商用化までのリードタイムを短くするため、日本だけではなく、アジアの各国で同時に臨床試験を行うというケースです。その際の治験薬の管理・配送は、発売前の薬ですから、外に出ることがあれば大変なことです。物流システムの構築には、このように、機密性が求められる場合もあります」(清水氏)

なお、ケイト・スペードでは、新体制と同時に、自社ドメインにてECサイトの運用を開始するというミッションもあった。

「弊社はこれまで、自社ドメインではなく、ショッピングサイトやモールに商品を提供するかたちで展開を行ってきました。しかし、購入者のメインとなる25~35歳の女性は、ほぼ100%スマートフォンを利用し、オンラインショッピングにも抵抗がない。商品自体も、価格が数十万円とハイエンドブランドほど高価ではないことから、ECとの親和性は高いと考えます」(岩下氏)

しかし、ECであっても実店舗と同様のブランド体験を提供する必要がある。これに対し二社は、注文があった場合に、店頭での販売と同レベルの包装を実施する体制を構築。実際の作業は、DHLの倉庫スタッフが担当し、事前にケイト・スペードのスタッフによる指導が行われたという。

「包装を開けて商品と対面した際、お客様に満足度を持って頂くことは大変重要な要素です。と、同時に企業としては効率性も追求していく必要があります。今後は、ブランドとしての満足度を持ちつつ、包装手順をより省力化できないか、さまざまな検討を進めていきます」と岩下氏は語った。