最近、量販店などに並ぶ液晶テレビやレコーダー、HDDなどに、黒地に金色の"S"と"Q"の文字が入ったロゴを見かけたことは無いだろうか。これは、その製品が「SeeQVault(シーキューボルト)」と呼ばれる新たな技術に対応していることを示している。

SeeQVaultの概要が確認できるWebサイト。対応製品やライセンスを取得する企業をチェックできる

現在、SDカードやUSBメモリ、HDDなどの記録メディアを接続することで、放送されている番組を簡単に録画することができるテレビやレコーダーは多い。しかし、こういった録画方法は、手軽に利用できる半面、映像の著作権を保護するため、メディアに記録された録画番組は録画した機器でしか視聴できないというジレンマを抱えていた。現在はネットワーク経由で他のデバイス(スマホなど)から視聴する環境も整ってきたが、録画した機器自体が必ず存在しなければならない。つまり、録画データを保存したHDDやSDカードがあっても、元の機器が無ければ録画番組を視聴することができず、万が一録画機器が壊れてしまった場合には、記録したデータはすべて読みだすことができなくなってしまうわけだ。

そんな不便な現在の録画状況を変えるべく、パナソニック、サムスン、ソニー、東芝の4社が共同で開発した新たな著作権保護技術が「SeeQVault」だ

SeeQVaultとは?

SeeQVaultの特徴は、テレビやレコーダーを買い換えても、新しい機器でそのまま録画番組を再生できるという点にある。従来であれば、録画したデータを新たな再生機器で視聴するためには、データを一度ブルーレイディスクなどにムーブし、その後新たな機器に対してムーブバックする必要があった。だが、SeeQVaultに対応した製品ならば、同メーカーの機器を使用すればそういった移行の手間がなくなることになる。また、録画機器が壊れた場合でも、録画データを引き続き他の機器で視聴することも可能だ。こういった特性を備えているため、例えばスマートフォンやタブレットなどで録画番組を視聴するためにデータを持ち出す際にも、SeeQVault対応メディアなら録画したHDコンテンツの解像度や画質等を下げることなく、元の画質のまま視聴できるというメリットもある。SeeQVaultはすでにホームネットワーク向け著作権保護技術「DTCP」の管理運営を行っている「DTLA」や、デジタル放送推進協会「Dpa」の認可も受けており、これから対応機器や記録メディア、アプリケーションが続々と発売されることは間違いない。

ただし、ひとつだけ残念な面もある。もともとはメーカーの垣根を超えた著作権保護技術として開発が進められたSeeQVaultだが、メーカー各社がそれぞれの特徴として付加していた機能や拡張に伴うファイルフォーマットなどの違いを最終的に吸収することができなかった。よって、現時点ではSeeQVaultが動作を保証する範囲は、基本的に同じメーカー同士の機器に限られることになる。つまり、テレビやレコーダーを別メーカーの製品に買い換えた場合は、いまのところ従来同様、録画データのムーブに伴う作業が発生する可能性も高いというわけだ。このあたりは、各社の今後の製品展開に期待したい。

メディア選びの際はSeeQVaultロゴをチェック

SeeQVaultに対応した製品を利用することで、具体的にどのように便利になるのだろうか。例えばリビングでUSBハードディスクに録画した番組を他の部屋で観たい場合は、ケーブルを外して別の部屋で挿し直せばそのまま視聴できる。またバックアップに利用すれば、万が一記録した元データが壊れてしまっても、メディアを繋ぎかえるだけで再び番組を楽しむことが可能だ(もちろん録画した番組のコピー可能回数は減少する)。従来に比べ、録画データ取り扱いの柔軟性が飛躍的に向上することは確かだろう。

SeeQVault対応のノートPC「dynabook T75/R」

各社の対応製品の展開状況は次の通りだ。東芝は、昨年からこのSeeQVaultを同社ブランド「REGZA(レグザ)」において積極的に採用している。SeeQVault対応のレグザブルーレイ、レグザサーバー、ダイナブックなどからSeeQVault対応記録メディアに録画した番組ならば、テレビやレコーダー、パソコンを買い換えたとしても、メディアを挿し替えるだけで視聴できるようになっている。先日発表した2015年夏モデルにおいてもSeeQVault対応ノートPCをラインナップしている。

パナソニックも「VIERA(ビエラ)」、「DIGA(ディーガ)」ブランドにてSeeQVaultへの対応を進めており、対応製品は増えてきている。またソニーはWindows PC用の「SeeQVault Player for windows」を用意し、ネットワークレコーダー&ストレージである「PC TV with nasne」を使ったテレビ番組の録画・視聴を実現するなど、他社にない路線で採用を進めている。

パナソニックの液晶テレビ「VIERA」の「CX800」シリーズもSeeQVault対応製品

ソニーはPC用ソフト「PC TV with nasne」を刷新し、SeeQVault対応機器への書き出しを可能に

SeeQVault対応記録メディアは、東芝のHDD「CANVIO」シリーズやソニーのSeeQVault対応microSDHCメモリーカードのほか、バッファロー、アイ・オー・データ機器などの周辺機器メーカーからもすでに発売済み。テレビ録画に関わる国内メーカーはこぞって対応を進めている状況だ。テレビ録画用にHDDやSDカードなどを購入するのであれば、これからはSeeQVault対応製品を選んでおくのが安心だ。店頭でロゴを見つけたら、一度製品をチェックしてみるとよいだろう。