たとえば、最近増えているハードウエアスタートアップが、実際に製品を作って出荷したい、としよう。彼らは彼らなりに、新しい発想で企画した奇抜な製品を提示する。その際には、デザインや発想だけでなく、技術的な特徴を備えていることも少なくない。だから、彼らの元に技術がないわけではない。

しかし、「量産のノウハウ」に欠けていることは容易に考えられる。商品のコアパーツでない部分での部品の選び方や、生産をスムーズにするためのちょっとした設計のコツといったものは、やはり、日常的に「量産」している人々でないと持っていないものだ。意欲的な製品の多くは、ODM・OEMメーカーと、企画元企業のコラボレーションがあって、はじめて世に出て行く。

名前を聞くことも多い「Foxconn」や「Quanta Computer」は、そういうノウハウを多数持っている超一流のODMメーカーだ。彼らの能力なしに、今の家電の量産は難しい。

設計などを持ち寄って生産してもらう形は、いわゆる「OEM」の一形態であり、現在はODMとOEMの境目もあいまいであるが、量産に至る設計や製造プロセスまで含め、どこがイニシアチブをとるかで、生産の形はずいぶん違ってくる。たとえばアップルの場合、設計から生産方法まで徹底的にコントロールする。生産委託先は労働力と物流拠点を提供する相手、といっていい。アップル以外でも、各メーカーのフラッグシップ・スマホはかなりそうした色合いが強い。

だが、ミドルクラス以下のスマホのように設計や製造がそこまで難しくない製品については、人件費が安く、リーズナブルなモノ作りのノウハウに長けたODMと組むにしても、「ほどほど」で済ませる。開発の段階で関与度を高めれば高めるほど、製造にかかるコストや期間は長くなってしまうためだ。その関与のさじ加減こそが重要なポイントで、Quanta Computerのような企業は、そこで企業とユーザーの要望をうまく満たすすべをよく知っている。

パナソニックのELUGA U2は、今回の騒動の被害者か?

今回、VAIO Phoneにおいて、パナソニックが台湾市場向けに供給している「ELUGA U2」に似ている……、という話が出てきたのは、Quanta Computerが持つ生産パターンの中から、日本通信がそのモデルを選んでカスタマイズしたからだろう、と予測できる。

日本通信とVAIOは元々、商品性として「ハイエンドではなく、手に取りやすい価格で十分な性能」のスマホを求めていたようだ。その観点で見れば、VAIO Phoneも、ELUGA U2も決して悪い製品とはいえない。そこに「期待アゲアゲ」になるような事前プロモーションを仕掛けて、ユーザーの期待との乖離を生んでしまったことが、今回の悲劇につながる。