京都大学は1月19日、魚類の胎生に関る新しい仕組みを見出したと発表した。同大学再生医科学研究所の飯田敦夫 助教、同 瀬原淳子 教授、北里大学医学部の西槇俊之 技術員らによる成果で、英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

卵を体内で受精して成長した子供を出産する胎生は、哺乳類で最も普及している繁殖様式である。実は哺乳類以外の脊椎動物においても、爬虫類、両生類、魚類など幅広い種で胎生種が分布しており、そのほとんどは胎盤や臍帯(へその緒)を使用する哺乳類とは異なる胎生機構を獲得している。しかし、魚類の胎生機構についての研究はこれまで形態や組織の記載に留まり、分子機構まで踏み込んだ解析は未開拓であった。

同研究ではまず、メキシコ原産の淡水魚・ハイランドカープを飼育・繁殖した後、胎仔を観察した。ハイランドカープは雌雄1対での交尾行動により体内受精し、交尾から約5週間後に1.5cmほどの稚魚を10~30匹出産する、グーデア科の胎生魚。

ハイランドカープの成魚

胎仔は肛門部に栄養リボンという構造物を持ち、母体から分泌された栄養分を吸収して成長すると考えられており、ハイランドカープにおいても交尾後2-4週間の胎仔で栄養リボンが観察された。この栄養リボンは出産時には消えていることから、出産に先立ち栄養リボンは母体内で退縮を始めることが予想された。

胎仔の肛門部にある栄養リボンが、出産直後の稚魚では退縮している

このことを組織の観察および細胞死マーカーを用いて調べたところ、栄養リボンではプログラム細胞死「アポトーシス」が起こっていることがわかった。これは母体外で不要となる構造物をあらかじめ分解・吸収して出産に備えるためだと考えられた。このような退縮機構は哺乳類をはじめとする胎生動物において他に報告がないとのこと。

同研究グループは今後、細胞死を誘導するスイッチを探索するとともに、母体側での妊娠維持機構を解析することで、グーデア科魚類で胎生を構成する仕組みを理解したいとしている。