ソフトバンクモバイルと提携を結んだ米Beats Electronicsの代表・Luke Wood(ルーク・ウッド)氏が、都内にて開催されたイベント「サウンド・シンポジウム」にあわせて来日。マイナビニュースでは、その後、ルーク氏の単独インタビューの機会に恵まれた。本稿ではその模様をお届けする。

米Beats Electronicsの代表・Luke Wood(ルーク・ウッド)氏

東京では以前より街中でBeatsのヘッドフォンをかけている人を多く見かけるが、日本のBeatsファンはどんな音楽を聴いて、普段どんな生活を送っていると思うか、早速、質問をぶつけてみた。

ルーク いい質問だね、一番良い質問から始めるのかい?(笑)。 Beatsはあらゆるジャンルの音楽を愛しているんだ。ヒップ・ホップやロック、さまざまな音楽があるけど、Beatsにはすべてが重要なのさ。ライフスタイルの観点から言うと、僕らの一番大きなミッションとしては、よりクオリティの高い音を、より多くの人に楽しんで欲しいというのがある。ただ、Beatsのブランドが根付いているという点では、カルチャーに鋭敏な人、デザインにこだわりを持っている人に刺さっているとは思うよ。

──開口一番「いい質問だ」と評してくれたが、アルバムの1曲目にキラーチューンを持ってくるのは常套だ。こちらは「捨て曲」無しの、全部シングルカットできる質問を用意している。続けて、Beatsが今後アプローチしたいユーザー層、マーケットについて訊いてみた。Beatsはストリートカルチャーとの結びつきが強いイメージがあるが。

ルーク さっきも言ったとおり、すべての音楽を愛しているから、特定のジャンルやマーケットにフォーカスした製品ということは考えていない。オールジャンルに良い音を届けたいんだ。音楽の「質」は、どのジャンルでも欠かせないので、そこだけは絶対に譲れないね。音楽を聴くとき以外、例えば映画やビデオゲームをプレイするときにも、一体感を高める上で音質は重要だし、そういったコンテンツのよきパートナーでありたいとも思っているよ。

──Beatsは創業から10年も経っていないのに、市場で急成長し、トップブランドまで登りつめた。事業の成功のカギとなったファクターはどのようなものだと捉えているのだろう。

ルーク 2つあると考えていて、1つはパッションだ。創業者でもあるジミー・アイオヴィンと、Dr.Dreのことは良く知っているんじゃないかと思うけど、ジミーは、レコードプロデューサーとして、ジョン・レノン、ブルース・スプリングスティーン、トム・ぺティ、U2を手がけてきている。Dr.Dreはラッパーとしてキャリアをスタートさせ、プロデューサーにもなっているが、彼はサウンドのパイオニアとして認識しているんだ。世の中に「音」を広め変革していった人だったと思う。二人とも本当に情熱的な人物だよ。もう1つの要因は音楽の質を根本的に変えていったところにある。この10年、15年というのは、安価でポータブルなデジタルプレイヤーが登場したことで、音楽には接しやすくなったけど、一方でクオリティは失われてきた。そこは改善すべきポイントだと思って真摯に取り組んできた。そのあくなき追求の結果、良い音を提供できるようになったし、そこを評価してもらえたんじゃないのかな。

──音質というと、日本ではハイレゾ音源が流行りだが、Beats製品との相性はどうなのか気になるところだ。

ルーク FLACやRed Bookオーディオのことだよね? Beatsとの相性はもちろん最高だよ。製品のチューニングには当然、AIFFファイルを使っているし。Beatsとしては、高解像度の音源がどんな品質なのか知っている人だけでなく、それ以外のリスナーにも良い再生環境を提供したいんだ。オーディオは圧縮することで、どんどん原音が失われていくから、形式はAACが一番良いって認識なんだけど、Beats製品はあらゆるソースを最良の状態で聴くことができるはずさ。

──とは言え、音楽体験として、ティーンエイジャーは最初からMP3だったりして、良い音をあまり享受できなかったという側面がある。そういった世代に、Beatsはどんなアプローチができているのだろうか?

ルーク プロダクトして、高音質であるというのは大前提だとして、優れたプロダクトでも存在を誰も知らなかったら意味がないよね? そういう点では、やはりデザインとマーケティングは大事だと考えているんだ。品質とデザインに、マーケティング──ちゃんとしたメッセージを発信していく──の3つが揃ってはじめてプロダクトを送り出せるようになるって。プロダクトのベネフィットとしては、オーセンティックな面を重要視しているんだけど、それはアーティストをプロデュースするのと同じ感覚かな。例えば、エミネムのアルバムが出るとして、音楽だけでなく、アートワークとかファッションなども込みでひとつのアイディアとして成り立つのであって、どこを切り取ってもそのアイディアの一部であるってことが大切だよね。ただ、Beatsとして、リスナーにメッセージが届いた、意図が伝わったと感じる瞬間は、やはり「音」を聴いて頂いた時だと思う。それで、良いものに慣れていたとして、ある時、そうでもないものに接したとき、ああ、自分は良い環境で音を聴けていたんだなという気づきがあるはずなんだ。反対に良くない音を聴いていた人がBeatsの音を聴いた時にも、自分は良くない製品を使っていたんだと分かってもらえると思うよ。

──そもそも、これまでのヘッドフォンやイヤホンに不満があって、Beatsを起ち上げたという側面もあるのかもしれない。

ルーク その通りだ。85年から95年の間に、デジタルレコーディングやサンプリングなどの技術が出てきて、制作環境が大幅に変化したのに、プレイバックの環境はあまり進化がなかったんだ。ミュージシャンとして、拘って作った音なのに、市場に出回って2、3週間後、そこらのスピーカーで聴いた時の裏切られた感っていうのに耐えられなくて(苦笑)。その時の絶望的な気持ちは忘れられないさ。

ソフトバンクモバイルとの提携記念イベント「サウンド・シンポジウム」でも熱弁を揮った

──ルーク氏にしても、Dr.Dreにしても、ジミー・アイオヴィンにしても、音楽制作の現場の人だ。ミュージシャンが集まった企業というのは創業時、周りからどう受け取られていたのだろうか?

ルーク 周りってことで言うと、アーティストのリアクションが即、良かったな。これを狙っていたんだ、これこそ自分たちが求めていた音なんだって評価してくれたよ。予想外の反応としては、プロアスリートからの評価だね。Beatsのヘッドフォンつけてトレーニングに励むことでインスパイアされることがあったってことなんだ。単にワークアウトが捗ったっていうだけじゃなくて。これも凄く嬉しかったよ。

──ルーク氏は、ソニックユースのドラマーであるスティーヴ・シェリーのレコードレーベル、スメルズ・ライク・レコードからデビューしたSammyのギタリストとしても知られている。Sammyはローファイなサウンドをベースにフックの効いたメロディが印象的なオルタナティブロックバンドだ。ルーク氏自身の最近の音楽活動はどんな感じなんだろうか。

ルーク ギターは毎日弾いているよ(笑)。そうそう先日、Fenderの役員に就任したんだ。レコーディングスタジオも持っているんだけど、もうちょっとそこで長く過ごしたいかな。楽器を弾くだけじゃなくて、作曲するのも大好きなんだ。曲を書きたいから楽器を弾くって言ったほうがいいのかもしれないね。ただ、最近作った曲が良い曲かどうかはわからないけど(笑)。多分、自分がミュージャンであるからかもしれないけど、音楽を聴くときは3Dで曲の構造が見えるんだ。コーラスでヴォーカルがダブルになるんだなとか、スネアがセンターより少し左に定位してるなとか、リバーブで奥行きをつけてるか、といった感じで。頭の中では本当にいろいろなことが起こっているんだ。こういう聴き方がプロダクトにも反映されているのさ。

──ギターキッズに戻った答えが返ってきた。最近はどんな音楽がお気に入りなのか訊いてみた。

ルーク 繰り返しになるけど、あらゆる音楽が好きだからね(笑)。ただ、今までになかったようなエッジィなものとか、ちょっと変わったことをやってる連中のことは気になってるよ、そういう人たちが新しい音を創っていくんだからね。今って、音楽にとってはとてもエキサイティングな時期だって認識なんだよ。さまざまなジャンルの音楽が入り交ざって、面白い音楽が生まれてきているし。

──それでは、音楽の制作と、企業の経営とで、共通してると感じていることは何なのだろう? 反対にここは違うなと感じていることはあるのだろうか?

ルーク 僕は、バンドの中でも飲まない、素面でいるタイプなんだ。機材車のドライバー役だよね。ライブが終わったら、クラブのオーナーとやりとりしたり、Tシャツ売ったり、機材を積み込んだりとかね。その時点で、経営者とミュージシャンとの間でバランスをとっていたんじゃないかな。クリエイターとしての面と、それを支えるビジネスマンとしての面だ。Beatsにいつも持ち込みたいのは「魔法」なんだ。ニルヴァーナのカート・コバーンと一緒に仕事してた頃から思っているのだけど、彼がスタジオに入ってヴォーカルを録音しているときは、とても心に響くものがあって、悲しみや苦しみがそのまま強く伝わってくるって言ったらいいのかな、とにかく「魔法」だって感じられる瞬間があって。それで僕は、そういう「魔法」だと感じられるものを詰め込みたいって気持ちになっていったのさ。Beatsで忘れたくないことはアーティストのエモーションを瞬間的に移動できるパワーを持っていたいということだ。それで、リスナーの皆とも彼らの気持ちを共有したいって。

──そう、Beatsはオーディエンスやリスナーにとって、媒介となる存在なのだ。今後、日本において、Beatsはどんな役割を果たしてくれるのだろう?

ルーク 僕らのブランドの骨組みがカチッとしたものになっているとは感じてはいるんだけど、今、日本でやらなきゃいけないと考えているのが、熱心なリスナー、オーディエンスを探し当てることだ。次のカルチャーを発掘してくれるようなインフルエンサーとコラボレーションしたりね。

──そこで、逆に「何かいいアイディアはない?」と訊かれたので、ロックフェスへの参加や、Beats主催のクラブイベントはどうだ?と返答すると……。

Fuji Rock FestivalやSummerSonicなどの主要なロックフェステイバルにも未だ足を踏み入れていないという現状があるけど、これから真剣に参加を検討して進めていくつもりだよ。

──と、なんとも楽しみな答えが返ってきた。Beatsとしては、ユーザーとのインタラクションを期待していて、そのために今後、「場」の提供を考えているらしい。もしかしたら、ロックフェステイバルでブースができたり、それこそDr.Dreプレゼンツのイベントが来年あたり開催されるかもしれない。

そういった期待も含めつつ、最後にソフトバンクとの提携について訊いてみた。ソフトバンクモバイルはBeats製品の限定モデルのほか、Hello Kittyの40周年記念コラボモデルをApple Store以外で国内唯一取り扱っている。

ルーク これまでの業績については素晴らしいものがあるよね。iPhoneを広めたってこともそうだし、アップルとのリレーションシップを深めていったってことは言うに及ばずだけど、とてもクリエイティブで恐れのないチャレンジャーな企業だってところを評価したいな。だけど、一番高く買っているのは、多くの方々に製品を届けられるような販売チャンネルを持っているという点だ。最終的に僕らのゴールは実際に使ってもらえるということで、それが成果であるからね。

ソフトバンクモバイルから発売された3製品。左から「Beats by Dr.Dre Studio Wirelessオーバーイヤーヘッドフォン」の新色グラファイト(価格;37,800円)、「Beats by Dr.Dre Solo2オンイヤーヘッドフォンハローキティスペシャルエディション」(価格:26,400円)と、「Beats by Dr.Dre urBeatsインイヤーヘッドフォンハローキティスペシャルエディション」(価格:14,800円)