欧州(EU)での米国系IT企業に対する風当たりがさらに強まっている。今年夏に欧州委員会(EC)の規定した「忘れられる権利」に基づいてGoogleが関連リンクの削除に乗り出したことが記憶に新しいが、今後はさらに同権利の欧州外への適用のほか、公正競争を理念としたWeb検索事業とその他サービスの強制分離といった、将来的なGoogle分割の話題へとさらに踏み込む動きが出てきている。Apple、Facebook、Amazon.comといった企業もシェアを土台にした影響力拡大や租税回避の動きに警戒感が強まっており、今後も米国との間で大きな摩擦となっていくことが予想される。

欧州議会(MEPs)は11月27日(欧州時間)、欧州内の"Digital Single Market"の成長に向けて障害を取り除くという提案が、賛成384、反対174、棄権56の賛成票多数で可決された。プレスリリースでは名指しされていないものの、前日に仏ストラスブールで行われたMEPsのAndrus Ansip氏によるスピーチでは、Digital Single Market実現の阻害要因となる存在としてGoogleら企業の名前が挙げられており、年間2600億ドルともいわれる欧州内の同市場の覇権をかけた綱引きがスタートしつつある。

今回問題となっていることの1つは、欧州内でもGoogleの存在感が強まっており、域内のインターネット環境やビジネスがGoogleの影響下へと入りつつことに対する懸念がある。検索エンジンはすべてのWebサービスへの窓口となる可能性があり、決して自社に有利な形でのリンクやランキングが行われないよう、透明性を持って運用にあたるべきという考えだ。透明性や中立性を確保すべく、検索エンジンとその他サービスでGoogleを2分割すべきという意見はここからきている。

最近話題となる「ネットの中立性(Net Neutrality)」や公明正大なビジネス習慣というのは特定企業による寡占状態を防いで成長を促すうえで重要な要素だが、一方で額面通りの説明とは受け取らず、欧州の巨大市場を盾にした極端な保護主義という批判もある。

米国側の立場で同件を報じているWall Street Journalによれば、最近になりフランスとドイツが共同提案でEUに対して域内のビジネスルールをさらに強化するよう求めるようになっており、特に米国系IT企業をターゲットにした締め付けを模索しているという。2000年代前半にはMicrosoftとEUが長年にわたって争い、和解金の支払いとOSからのWebブラウザ分離で合意したが、今後はこうした動きをGoogleを初めとするIT大手らに対して仕掛けていくことになると考えられる。

近年フランスでは、こうしたインターネットで大きな影響力を持つ米国IT企業群の頭文字をとって「Les Gafa (Google, Apple, Facebook and Amazon)」などと呼んでいるようで、域内でのシェアを拡大しているにもかかわらず、租税回避で落とされるはずの税金も限られるなど、地域系企業のビジネスにとって不利になるだけでなく、利益を吸い上げられるだけとの不満が鬱積している。

顕著な例が、Amazon.comのシェア拡大に危機感を抱いたフランス政府が、同社の目玉サービスの1つである「無料配送サービス」を禁止したところ、同社はすぐに「1セント」での配送オプションを追加するなど、露骨な対抗手段を取ったことなどに現れている。実際のところ、個別対応や規制ではすぐに回避されてしまうため、欧州全体で対抗に向けた策を練るべく検討を始めた……というのが今回の動きなのかもしれない。