マウスコンピューターが本日28日に発表したスティック型PC「m-Stick」シリーズ(モデル名:MS-NH1)。手のひらサイズどころか、フリスクケースと見間違えるほどの小型ボディながら、中身はフル機能の"Windowsパソコン"という注目の製品だ。実機の入手に成功し、開発担当者の話も聞くことができたので、ファーストインプレッションとしてお届けしたい。
スティック型のコンピュータとしては、テレビをスマートTV化する「Android Stick」などが登場しており、今回のm-Stickもそれらを髣髴とさせる製品だが、m-Stickは完全なWindowsパソコンとしての機能を持つ点で特別な存在だ。普通のパソコンとの違いは、パソコンにモニタを繋ぐのではなく、モニタにパソコンを繋ぐのだと言うべき感覚の違いだけ。ハードウェアはBay Trail世代のIntel Atom Zをベースとしており、本体ボディの一辺には映像出力用のHDMI端子がにょきっと生えている。
このm-Stickの概要を把握するにあたっては、ハードウェアのスペック表と各部写真、簡単なベンチマーク結果を以下に掲載するので、言葉で説明するよりも、それらを見てもらった方がわかりやすいだろう。適当なPCディスプレイやテレビなどHDMI入力のあるモニタに本機を接続し、適当なキーボード/マウスを用意すれば、それだけで普段使いに問題ない水準のWindowsパソコンの環境が整ってしまう。
■「m-Stick MS-NH1」の主な仕様 | |
CPU | Intel Atom Z3735F(1.33GHz/4コア) |
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メモリ | 2GBオンボード |
ストレージ | 32GB eMMC |
インタフェース | HDMI出力×1、USB 2.0(フルサイズ)×1、MicroSDカードリーダ(microSDXC対応)×1、IEEE802.11b/g/n、Bluethooth v4.0 |
主な付属品 | HDMI延長ケーブル、ACアダプタ |
本体サイズ/重量 | 100×38×9.8mm(端子部含まず)/約44g |
価格 | 19,800円(税込、直販時送料込) |
m-Stickで広がるパソコンの新たな使われ方
マウスコンピューター製品企画部の部長で、m-Stickの開発を担当した平井健裕氏に伺うと、m-Stickの製品化の発端は、「Android Stickが、PCになったら面白いよね」という、ちょっとした思いつきだったという。これまでにないPCの使い方を提案できるのではないかと可能性を感じ、ちょうど台湾でCOMPUTEX TAIPEI 2014が開催されていた頃、今年の夏あたりから開発がスタートしたのだという。
出来上がったm-Stickは、リビングや自室のテレビにさしっぱなしでも気兼ねなく使える通常動作で2~3W程度という低消費電力や、超小型な本体をHDMIに接続するだけという勝手の良さで、コンシューマ向けだけでも多くの活用が想像できる。値段も安いので、子供用m-Stickや、奥さん用m-Stickといった感じで、Windowsで各自のアカウントを作るのではなく、シンプルに各自の個人用ハードウェアを用意してしまうような運用も気軽にできそうだ。
企業向けでも、近年よく見るようになった、PCディスプレイの背面に設置するタイプの小型パソコンの比にならない小型サイズは大きなメリットだ。例えば出張の時、会社のデスクで使っているm-Stickをそのままポケットに入れて出かけて、あとは主張先のホテルのテレビに差し込めば、そのまま会社と同じパソコン環境の完成となってしまう。クラウドストレージやOffice 365などを導入すれば、どこへ行くにも快適そのものだろう。出張先でプレゼンを求められても、プロジェクタのHDMI端子にm-Stickを挿すだけで済んでしまう。
ほかにも、個人による"ものづくり"のムーブメントがあるが、例えば、コントローラPCにノートパソコンを使っているようなロボットで、ノートパソコンをm-Stickに変えたら。m-Stickは、スペック自体はスマートフォン用のモバイルバッテリでも動かせるものであるため、ロボットにコントローラPCとあわせて一式背負わせてしまうことが、格段に簡単に実現できるようになる。
平井氏としては、用途があって買ってすぐに誰にでも便利に活用できるという幅広さの一方、m-Stickを(ハードウェアマニアなどの層に)面白がって遊んでもらえれば、これまで想像できなかった活用法がたくさん出てくるのではないかと、ユーザーからのフィードバックも期待しているという。
マウスコンピューターならではの作り込みで差別化
さて、m-Stickだが、ただ単に本体の大きさや最低スペックだけにこだわってしまうと、安かろう悪かろうの製品になってしまうことも有り得る。いち時期、値段が安いだけの粗悪なAndroidタブレットが市場に氾濫し、Androidタブレットそのものの使い勝手に悪いイメージが持たれてしまったような不運を、この製品では繰り返して欲しくないのだと平井氏は話す。
そこで、安定性や信頼性を重視していくという方針を確認した。それこそ、綺麗なハンダ付けや、実際に差が出るのかどうか微妙なレベルの冷却最適化、基板上の余計なパターンの削減など、見えない部分から気を使い、量産バージョン完成までに多くの試作を繰り返したという。わかりやすく差が出てくる部分でも、eMMCのチップや、通信チップにきちんとしたものを採用しようとこだわった。
ハードウェアに限らず、マウスコンピューターでは、OSの作り込みのところでもこだわったという。というのも、超小型であるだけに、ストレージの容量の問題はいかんともしがたい。できるだけOSのサイズを小さく最適化してプリインストールする工夫が、m-Stickではなされているという。例えば、Windows 8.1では、毎月のWindowsアップデートだけでも数百MBクラス容量を消費してしまうことが珍しくない。m-Stickでは、できるだけ最新のアップデートが適用された状態で、アップデートのスタックをできるだけシュリンクし容量を稼いだイメージをプリインストールし、少しでもストレージを空ける工夫がなされているという。
Core M版は出ないんですか? 将来の話も少しだけ……
マウスコンピューターではm-Stickを、単発ではなく、製品ジャンルとして継続していく方針にしているそうだ。そのため、「次の世代も考えている」(平井氏)という。
当然、Intel Atomの次世代を載せたm-Stickは出す計画だそうだが、さらに、「今の2-in-1パソコンのハードウェアに相当するようなハイエンドなm-Stickも計画にある」という。というと、Intel Core M相当のm-Stickしか考えられないわけだが、「言えません(笑)」(平井氏)とは大人の事情だろう。次世代m-Stickの登場時期は、Intelのスケジュールにも寄るが、来年の今頃には……というあたりだそうだ。
HDMIのMHL化も次世代m-Stickでは検討してくれそうだ。今回のm-Stickでは、microUSB形状の給電ポートを別途用意しているのだが、MHL化で給電がHDMI出力と一本化すれば、さらにとり回しが良くなるだろう。