慶応義塾大学(慶応大)は10月8日、規則的に並んだシリコン原子が、中心の金属原子を丸くカゴ状に取り囲む、新たなナノ物質である金属内包シリコンナノクラスタを気相合成し、固体表面上で薄膜化する技術を開発したと発表した。

同成果は、同大 理工学部の中嶋敦教授らによるもの。詳細は、英国王立化学会の学術誌「Nanoscale」に近日中に掲載される。

ナノクラスタは、数個~1000個程度の原子・分子が集合した数nmほどの大きさの超微粒子である。その物理・化学的性質を原子数や組成、荷電状態によって制御できることが特徴で、触媒、電子デバイス、磁気デバイスなどへの応用が期待されている。特にエレクトロニクス分野では、シリコンなど半導体材料のナノクラスタを積み木のように組み上げて、新たな機能を持つ超微細構造を生み出す技術が注目されている。その中で、ナノクラスタを固体表面で固定し薄膜化する技術は、その基盤となる技術の1つと言える。しかし、気相合成ナノクラスタの構造や荷電状態は、固体表面上で変化しやすく、本来の構造や性質・機能を保持しつつ固体材料化することは極めて困難だった。

今回、研究グループでは、16個のシリコン原子が、中心にある1個のタンタル原子を丸くカゴ状に包み込む金属内包シリコンクラスタ(Ta@Si16ナノクラスタ)を気相合成した。さらに、炭素フラーレン(C60)で表面修飾した基板上にTa@Si16ナノクラスタを蒸着し、C60とTa@Si16ナノクラスタの共有結合により複合体化することで、Ta@Si16ナノクラスタを固体表面に固定し薄膜化することに成功した。このとき、ナノクラスタの構造と荷電状態が薄膜化前と変わらずに保持されていることも、実験と理論の両面から実証したとしている。

理論的に提案されている気相中におけるTa@Si16ナノクラスタの構造モデル。気相合成されたTa@Si16ナノクラスタは、タンタル原子を中心にその周囲へシリコン原子を球状に配置したカゴ状構造をとることが理論的に予想されている。このような高い幾何学的対称性は金属内包シリコンナノクラスタの特徴の1つである