9日(現地時間)、米国・クパチーノのThe Flint Center for the Performing Arts で開催されたAppleのスペシャルイベント。キーノートスピーチの終了後、発表された製品およびサービスのハンズオンが、会場近くに設置されたホワイトキューブ内で行われた。本稿では、実際に触ってみてのApple Watchに関するレポートをお届けする。
キーノートで映像を見た時思ったのが、「時計だな」ということだった。Apple Watchについては、発表前に流れていた噂も、仕様やデザインに関しては確たるものでなく、なんとなく「発表されるらしい」くらいのものだった。しかし、イベントスタート前に集まった人々の服装を見た感じ、これは相当なオシャレ路線で来るな、ということだけははなんとなく分かった。そこで、本稿はAppleの方針(?)に則って、敢えてスペックや技術的なタームについて言及せず、Apple Watchの魅力に迫ってみたい。スマートウォッチに求められているのは、実用性、機能性だけではない。
筆者が「時計だな」と感じたポイントは「デジタルクラウン」と称しているリューズ状の機構である。これは見た瞬間に「回すもの」であることが解る、瞭然である。Appleのプロダクトデザインが上手いと思うのは、過去に発表した作品(「製品」でなく敬意を込めて「作品」と呼ぼう)においても、ここに触れば何か反応があるというヒントを必ず置いておくところだ。ドナルド・ノーマン風のアフォーダンスがそこにはある。この機構は、装着する人にウエアラブルデバイスであることを意識させると同時に、ウエアラブルデバイスとして使用しなくても良い、という感覚を齎している。なぜなら、それは伝統的な意味での「時計」なら備えているはずの構造物であるからだ。Appleはウエアラブルデバイス以前に「時計」として使いたくなるような作品を送り込んできたのである。
時計として使いたくなるかどうかというのは、Apple Watchを手に取らせる上でキーとなるところだろう。そもそも、iPhone/スマートフォンを持っている人々の間では時計離れが著しく、筆者自身も、日常で装着することはない。そういった人々の関心を惹きつけるものでなければならないからだ。
個人的に、なぜ時計をつけないかというと、男性向けの時計の多くはごつく、主張が強すぎて、着ている服と合わないからである。その点においては、Apple Watchは合格と言える。装着してみると、他のスマートウォッチのようなチープ感はないし、悪目立ちしてしまうこともない。男性でも女性でも大丈夫なユニセックスなデザインにしたことで、幅広い層に受け入れられやすくなっているという印象だ。キーノートで使われた映像ではJonathan Iveがナレーションを担当していたので、プロダクトデザインを手がけたのは彼で間違い無いだろうが、もう一人、気になる人物がいて、腕に巻いたApple Watchをしばし眺めていると、どうしてもその人物の影がちらついてくる。
その人物とは、イベントの数日前にAppleの入社が明らかになったMarc Newsonだ。彼が以前にデザインを手がけた腕時計「IKEPOD」とApple Watchのケース部はとてもよく似ており、さらに、ストラップやブレスを留めるためのラグがないところもアイディアとしては同じであるように見える。もう一つ加えると、背面のセンサー、ホーム画面のアイコンの丸い形状は、まさしくMarc Newson印と言えるものである。実はこの日も、ハンズオンの会場にMarc Newsonは姿を現していた。メインでデザインを手がけたのはJonathan Iveかもしれないが、スーパーバイザー的な立ち位置でMarc Newsonが関わっていたのは想像に難くない。
いずれにせよ、Apple Watchがデザイン的に優れているのは間違いなく、購買欲をそそるようなものに仕上がっている。スタンダードなラインのほか、スポーティーなライン、リュクスなラインを揃えたのも、「時計」として売るのに良い戦略だろう。ラグがないとはいえ、ストラップやブレスは、しっかり交換できる仕様になっているから、純正品以外のものが数多く出てくるのも予想される。もしかしたら、Yves Saint-LaurentのHedi Slimaneとコラボレーションしたモデルなんかも出てくるかもしれない。価格は349ドルからということだが、もし、Hediとのコラボモデルが出るなら5,000ドル超えてても買う。Apple Watchはとってもワクワクする作品だ、発売が待ちきれない。残念なのは、これがクリスマスまでには出ないということ、それだけだ。