スマートデバイス向けWebコミックサービス「comico(コミコ)」を展開しているNHN PlayArtは、ペンタブレット製品メーカーのワコムと、マンガ・イラスト制作ソフトをリリースしているセルシスの協力のもと、7月13日に渋谷ヒカリエにて『第2回フルカラーデジタルマンガ制作入門講座』を開催した。

フルデジタルへの移行を考えているマンガ制作者に向けた同講座では、「ペンタブレットの環境構築入門講座」「クリップスタジオ入門講座」「『comico』スタイルコミック制作入門編」という3つのプログラムが実施されたほか、別室にて「タブレット体験コーナー」を開設。今回のレポートでは、「クリップスタジオ入門講座」と「『comico』スタイルコミック制作入門編」の様子を紹介する。

クリップスタジオ入門講座

デジタルコミックの初心者向けた「クリップスタジオ入門講座」は、デジタルノイズ取締役であり、デジタルコミック関連のセミナー講師や入門書執筆などの活動を行っている、小高みちる氏が講師を担当。講座では、セルシスのデジタルコミック作成ソフト「CLIP STUDIO PAINT EX」を使用して、ファイルの新規作成から、コマ割り、下書き描画、ペン入れ、着色、トーンの貼り付けといった一通りの行程が紹介された。

「クリップスタジオ入門講座」で登壇した小高みちる氏

例えばファイルの新規作成では、原稿用紙のサイズの決定、カラーとモノクロの選択、解像度の指定、保存先の設定など、実際に必要な作業が丁寧に解説されている。また、「CLIP STUDIO PAINT EX」は、2015年に販売終了が発表されているマンガ制作の定番ソフト「ComicStudio 4.0」の機能を引き継いだソフトであるため、「ComicStudio 4.0」のユーザーに向けて、設定項目の呼び出し方が変わった機能や、インタフェースが違っている部分などの解説が所々で付け加えられていた。

「CLIP STUDIO PAINT EX」での新規ファイル作成

ペン入れ作業の解説では、ペンタブレットとの連携に関する設定も紹介。筆圧感知機能に対応している「CLIP STUDIO PAINT EX」の鉛筆ツールなどでは、線の描き始めの「入り」と、描き終える「抜き」の部分で線の太さを変化させることができる。さらに、「サブツール詳細パレット」を表示させることで、「入り抜き」を細かく調節することが可能だ。例えば「入り抜き」メニューから「ブラシサイズ」を選択すると、「ComicStudio 4.0」と同様の入り抜き加減に設定できるのだ。

「サブツール詳細パレット」で「入り抜き」の設定が可能

その他にも、コマの枠線の間隔調整、ツールパレットのカスタマイズ、各種描画ツールの使い分け、デコレーションブラシの仕組みやカスタマイズ、トーンやパターンの使い方や追加方法など、作業効率を上げるためのテクニックや、知っていると表現の幅が広がる機能の紹介などが行われた。デジタル環境を導入したばかりの入門者には、ステップアップするための知識が数多く学べた講座となったはずだ。

『comico』スタイルコミック制作入門

「『comico』スタイルコミック制作入門編」では、comicoでボウリング漫画『ジャストポケット!』を連載している漫画家のすねやかずみ氏が講師を担当し、「comico形式」のマンガ制作に関する解説が行われた。スマートデバイス向けコミックのcomicoは、縦スクロールで読み進める縦長のフォーマット「comico形式」を採用しており、右ページから左ページへと読み進める雑誌や単行本向けフォーマットとは異なる注意点やテクニックが必要となるのだ。

「『comico』スタイルコミック制作入門編」で登壇したすねやかずみ氏

comico形式は、690×20,000ピクセルという縦に長いフォーマットだが、縦長のままで描画を行うと、パソコンへの負荷が大きく、ディスプレイ上で全体を見渡すこともできない。そこで、20,000ピクセルを3分割して横に並べてた作業用ファイルで描画すると扱いやすくなるとのこと。

20,000ピクセルを3分割して横に並べてた作業用ファイルで描画

また、海外に向けた外国語版を作成する時のために、吹き出しレイヤー・ネーム(セリフ)レイヤー・描き文字レイヤーを別途に作成しておく必要もある。しかし、「CLIP STUDIO PAINT EX」の機能では、吹き出しを作成してからネームを入れると、ネームが自動的に吹き出しの真ん中に配置されてしまうのだ。そこで、ネームを先に置いてから吹き出しを被せることで、ネームと吹き出しのレイヤーを分けることができるという。

吹き出しにネームを入力するのではなく、先にネームを置いてから吹き出しを被せる

雑誌や単行本では、見開き左下のコマに、次の展開が気になるようなカットやセリフを入れたり、迫力のある大コマを入れるなどしてメリハリを作ることができた。しかし、ページの切れ目がなく縦長のcomico形式では、どちらのテクニックも使えない。そこで、すねやかずみ氏は、コマとコマの間隔をわざと広くしたり、あえて吹き出しの位置を読みづらい配置にする、小さく描いたキャラクターを左右に動かすなど、印象に残るような工夫を盛り込んでいるそうだ。また、スマートフォンでマンガを読むスタイルは始まったばかりなので、これからcomico形式のマンガを描く人には、読者の注意を引くための新しいテクニックを開拓して欲しいと語っていた。