日本のポスターデザインをどう思いますか?(画像は葛西薫が手がけた平和希求キャンペーンポスター「ヒロシマ・アピールズ」)

日本にはたくさんのポスターがあふれています。写真やイラスト、グラフィックと素材の幅広さはもちろんポップ、シンプル、伝統的…とデザインの調子もさまざまです。海外のみなさんはそんなポスターをどう感じているのでしょうか。

今回は、日本在住の外国人20名に「日本のポスターデザインをどう思いますか?」と質問してみました。

■基本的に日本はデザインが得意なので、かっこいいポスターがいっぱいあります。(スウェーデン/40代後半/女性)
■斬新的。(中国/30代前半/女性)
■きれいです。(スリランカ/50代後半/男性)
■よいと思います。(ドイツ/30代後半/男性)
■かっこいい。(ペルー/40代後半/男性)

良い評価の回答です。世界的にデザインの水準が高いと言われるスウェーデンの方からの「かっこいい」という評価は嬉しいものですね。日本のデザインのよさは、伝統的な和の表現だけでなく、海外のデザインも日本人の感性でかみ砕き、新たな表現にしている点にあるでしょう。

20世紀初頭にはバウハウスの理念をいかしたデザインをした北園克衛、ロシア・アバンギャルドに影響を受けたグラフィックを多く制作した原弘がいますし、その後に活躍した亀倉雄策や田中一光は、東京オリンピックや大阪万博のポスターで日本をモダンなグラフィックで表現し、後世に大きな影響を与えています。現代でも日本の侘び寂びを含んだ葛西薫やポップさと優しさを併せ持った森本千絵など、多くのデザイナーが多様な作風でポスターを制作しています。

■最近はあまり見かけないですが映画館の絵画でできているポスターの模写が面白いです。(フランス/30代後半/男性)

これはおそらく手描き看板のことでしょうか。かつてはアクリルやエアブラシなど、多くの絵師がさまざまなタッチの看板を披露していましたが、映画館が現象しつつある今では、確かに味のある絵看板は減っています。

ですが、「映画看板の町」として街の至る場所に昭和レトロな邦画・洋画の看板を掲げる東京・青梅市の例や、その卓越した技術を残したいと活動する職人さんや会社はまだあります。4月には映画「プリズナーズ」の上映に際し、「本格派の作品であり、映画館の入り口から違いを感じてもらいたい」と丸の内の映画館で手描き看板が復活したそう。手間や時間はかかりますが、後生に残してほしい職人技だと筆者も思います。

■キャラクターを使用することが多いので驚いています。(スペイン/30代後半/男性)

固い職種や難解な内容のポスターに、キャラクターを使っているのをよく見かけますね。鉄道系ではかわいい女の子キャラも多く、親しみやすさや短さを印象づけたいという意図が見て取れます。

こうしたアニメキャラクターやゆるキャラが最近では有名ですが、実はソール・スタインバーグに影響を受けた柳原良平がキャラクターを描くサントリートリスや、1989年まではパナマ帽をかぶった黒人男性のロゴでおなじみだったカルピスなど、現在とは方向性が異なる「キャラクター」を用いたポスターも存在しているんです。

■派手だ。(トルコ/20代後半/女性)
■いろんな色を用いて鮮やかです。(オーストラリア/40代前半/男性)
■少し派手な印象があります(イタリア/30代後半/女性)

日本では狭いスペースにたくさんの情報がひしめいています。そこで人目を惹くセオリーのひとつとして「派手な色を使う」という手法があることも関係しているのでしょう。雑誌や企業のロゴ色を選ぶ時に赤を選ぶ、という話が多いのも同じ理由です。ただ、こういった色彩に関しては、ジャンルや内容にもよるのですべてが鮮やかだとは一概には言えないんですよね。

■普通。(ベトナム/30代前半/女性)
■シンプル。(インドネシア/30代前半/女性)
■多様。(韓国/40代後半/男性)
■他と同じだと思います。(アメリカ/30代後半/男性)

ということで、まったく逆の意見です。正反対の意見が出ると、見ておられる場所の違いを感じる一方で、日本がいろいろな側面を持っていることを再確認させられます。例えば、麦焼酎「いいちこ」のポスターは、写真と商品名、短いコピーだけという直球勝負。先ほどの派手なデザインの中にあると逆に静謐さが際立ち、印象にも深く残る美しいポスターです。

抑えたトーンはJR各社にも多く、「そうだ 京都、行こう。」、「行くぜ東北」、「Japanese Beautyホクリク」など旅の楽しさとともに郷愁を伝えるポスターが見られます。ちなみに筆者のおすすめは「青春18きっぷ」のシリーズです。

■情報が多いです。(インドネシア/30代後半/男性)
■テキストが多すぎです。(ポーランド/20代後半/女性)
■小さい文字をなくしてほしいです。見えなくて、重要かもしれないと気になってしまいます。(ロシア/20代後半/女性)
■どちらかというと日本人向けで外国人はわかりにくい。(ブラジル/50代前半/女性)
■ださい。(シリア/30代前半/男性)
■よくない。(イギリス/40代後半/男性)

こちらは否定的な意見です。筆者の経験では、病院でバイリンガルのせきエチケットポスターを見て珍しく感じたほどに、国内のポスターは日本語だけが普通です。これまでは海外の方が国内に少なかったことはもちろん、掲載される情報やテキストが多いこともそこに関連しているのかもしれません。

ポスターは文字が読めない人にも情報伝達できるデザインであるべきだと言われます。しかし、識字率が99.8%の国だけに、そうした根本がおろそかになっているのかも…。日本がより国際的な方向に進むためにも、デザインなどの見直しはまだ必要だと言えそうです。

日本でポスターを目にしない日はありませんが、その中で印象に残っている内容といえば意外と限られてくるもの。表現方法や調子はいろいろあれ、人の心を打つ物はおしなべてよいデザインといえるのではないでしょうか。今回の質問では、映画の手描き看板のような具体例はわずかで、海外の方たちの印象に残ったポスターの内容はわかりませんでした。もし、それがわかれば今後のポスターデザインの参考になるかもしれませんね。