デジタル方式

デジタル制御はこうしたトレードオフの問題を解消します。IntersilはZilker Labsの取得などを通じ、2003年以来、デジタル電源革命で中心的な役割を果たしてきました。最近は、補償回路を必要とせずにデジタル電源ソリューションを提供する業界初の製品「ZL8800」コントローラを発表しました。この「ZL8800」デュアル・チャネル降圧PWMコントローラは、安定性確保のためのループ補償が不要で、システム帯域幅を犠牲にする必要もありません。内蔵のメモリにより、任意の用途向けにさまざまな設定が可能で、外付け部品点数を最小に抑えながら、高電力密度回路の設計を可能にします(図1)。

図1 「ZL8800」デュアルPWMデジタル・コントローラの代表的なアプリケーション

「ZL8800」の最大の特長は、「ChargeModeコントロール」と呼ばれるIntersil独自の制御ループの採用です。この高速ループでは、過渡応答発生時に出力コンデンサからの電荷損失を正確かつ迅速に補充することができます。デジタル・ループが出力電圧のオーバーサンプリングを行うことから、サイクルごとの迅速な制御も可能になります。さらに「ZL8800」はデジタル制御アルゴリズムに基づいて高精度の調整を行えることから、安定性向上のために実際の出力コンデンサ値を検出する必要がありません。その結果、特定のアプリケーションをサポートするために必要なキャパシタンス値の低減が可能になり、補償回路不要の設計が実現します。

「ZL8800」はいかなる過渡状態にも対応できる応答特性を備えており、安定性を維持し、リンギングやオーバーシュートを最小限に抑えることができます。こうしたアプローチにより、電源部品の選択肢が広まるという、システムレベルの利点が実現します。「ZL8800」は安定性をさらに強化することから、最適な性能を実現する部品を選択できます。さらに、デジタル・ループで常に変化を監視し、変化への対応が可能なため、部品の経年劣化や環境変動による影響を除去できます。

高帯域制御は、さまざまな内部サブシステムによって実現されています。その1つが、制御ループに過渡応答特性をもたらす高速オーバーサンプリングADCです。また、デュアル・エッジ・モジュレータは、「ZL8800」による固定スイッチング周波数の維持とループによる遅延の最小化を可能にします。トレードオフ関係にあるループ帯域とゲインについては、「ZL8800」はプログラマブル・ゲイン制御機能による最適設定が可能で、制御ループ応答特性の正確な設定を実現します。

図2は代表的なアプリケーションにおける「ZL8800」の性能を示します。「ZL8800」は動作周波数が550kHzの2相シングル出力コントローラとして構成されており、出力キャパシタンスは2,700μF未満で、合計60Aの出力電流を実現しています。以下のオシロスコープの図形を見ると、アプリケーションの設定は入力電圧Vin=12V、出力電圧Vout=1.2V、負荷ステップ20A(20Aの電流ステップアップと20Aの電流ステップダウン)で、合計の出力偏差幅がわずか24mV(出力の±1%)であることがわかります。

図2 「ZL8800」の過渡応答特性

「ZL8800」のその他の特長

「ZL8800」は動作入力電圧範囲が4.5V~14Vで、出力電圧を0.54V~5.5Vの範囲でプログラムできます。「ZL8800」は、内部選択あるいは外部クロックにより、200kHzと1.33MHzの間の周波数でスイッチングを行うことができます。また、大電流出力機器に対応するために、デュアル出力による設定あるいは2相モードによる動作も可能です。PMBusによるデジタル通信も可能ですが、Intersil独自の単線式DDC(デジタル直流)インタフェースも備えており、多数のIntersil製品間での通信が可能になるため、複雑な電源アーキテクチャを構築することができます。また、DDCバスにより、複数のデバイス間の複雑なシーケンシングと故障管理も可能になります。

「ZL8800」はテレメトリのために故障の発生時に動作データをキャプチャするパラメータ・スナップショット機能を備えています。一方、内蔵の不揮発性メモリはデータとユーザー設定値のローカル・ストレージを提供します。「ZL8800」の発表を機に、Intersilは「PowerNavigatorグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)」のアップデートを発表しました(写真2)。この最新バージョンのPowerNavigatorにより、直感的なプログラミング環境で、プログラムを書くことなく、「ZL8800」の全機能を活用できるようになります。また、「ZL8800」向けにデュアル出力用(1出力につき30A)と60Aの大電流2相システム用の2種類の評価ボードが用意されています。

写真2 PowerNavigatorグラフィカル・ユーザー・インタフェース

著者紹介

チャンス・ダンラップ
Intersil
インフラ・パワー・プロダクツ担当シニア・マーケティング・マネージャ
同社のアプリケーション、ビジネス開発、マーケティング部門で、15年間にわたってデジタル電源から絶縁型コントローラまで広範な電源製品を担当。
パデュー大学で電気工学学士号を、アリゾナ大学でMBAを取得。
取得した特許は6件。同社のシンポジウムやコンファレンスでプレゼンテーションを行うとともに、電源設計とループ安定性に関する多数の技術論文も発表。