みなさんは「受動歩行」という言葉をご存じだろうか? 「動歩行」と混同されるかも知れないが、それとは異なる。2足歩行ロボットに興味がある方ならご存じかと思うが、おさらい的に説明しておくと、動歩行とは「静歩行」と対になる、重心がどこに置かれているかで分類される歩き方のことだ。

動歩行とは、我々ヒト(ヨチヨチ歩きの赤ん坊を除く)がする歩き方であるほか、ASIMOなどの高機能なロボットが採用している、軸足に重心を置かない(重心がどちらの足の裏から外れたところにある)歩き方のことで、要は前に倒れているけど、倒れる前に次の1歩を前に出しているので、効率よく2本足で素速く移動していけるというわけだ。それに対して静歩行は、ヨチヨチ歩きの赤ちゃんの歩き方や、ASIMOの先祖に当たる脚部だけの「Eシリーズ」(中でも初期型)などに採用されているもので、軸足に重心を置いて、抜き足差し足忍び足的に慎重に歩くような歩き方をいう。

そして冒頭で述べた受動歩行は、これらとは異なる。重心の置き方に視点を置いた歩行モーションの分類に含まれるのではなく、2本足(並列に並んだ4本足も含む)で歩行しようとする際に、自然と生じる「物理(自然)現象」もしくは「原理」といってもいいものなのだ。

Tad McGeer博士が1990年に発表したもので、簡単にいってしまうと、足の付け根、ヒザを軸とする2重の振り子運動を利用し、少ないエネルギーを用いて効率よく歩く方式の歩行のことをいう。また、わずかなスロープを設ければ、位置(重力)エネルギーを利用できるので、サーボモータなどのアクチュエータを一切必要としない無動力の歩行装置でも延々と歩き続ることが可能だ。いわば、人は動歩行と受動歩行を組み合わせたとても効率のいい2本足での歩き方をしていることから、非常に遠くまで歩けるのである。

ちなみに受動歩行の対義的といえる歩行方法は「能動歩行」とはいわず、多くのロボットに採用されている、「ZMP(Zero Moment Point:動力学的な重心位置)規範型歩行」だ。ZMP規範型は動歩行の1種なのだが、ウォーク(常足)、トロット(速歩)、ギャロップ(駆け足)といった歩容(歩様)をあらかじめ決めてあり、なおかつワンステップごとに踏み出すペースや次に足を置く位置などがすべて計算されている歩き方なのだが、力任せ的にエネルギーを消費する効率のよくない歩き方なので、自然界でそれをする動物はいない。

こうした、ロボットの歩行、特に受動歩行における日本の研究者のトップの1人で、受動歩行を物理現象と考えているのが、今回お話を伺った名古屋工業大学(名工大) 機能工学専攻の佐野明人 教授である(画像1)。

佐野教授は、2010年4月当時に受動歩行が可能な脚部のみの歩行装置とスロープのついたトレッドミル(ベルトコンベア)を用いて、連続歩行時間13時間45分、歩数10万650歩、歩行距離約15.2kmという、受動歩行による連続歩行のギネス記録を獲得した研究者で(実験そのものは2009年5月に行われた)、その後、27時間連続歩行も達成した(画像2)。同4本足の受動歩行装置が歩行する様子は、過去のマイナビニュースの記事でも紹介している。

ちなみに現在の連続受動歩行のギネス記録は、2013年4月に公立はこだて未来大学 情報工学科の兵頭和幸 助教らによって達成された、ヒザがなく足裏に工夫のある受動歩行装置による100時間・16.3kmだ。

今回は、この受動歩行という現象を2足歩行型のヒューマノイドロボットに応用することの高い可能性、そしてその現象を応用して、佐野教授の研究室と株式会社今仙(いません)技術研究所とで共同開発された無動力歩行支援機器「ACSIVE(アクシヴ)」(画像3)などについて紹介したい。

画像1(左):名工大の佐野教授。画像2(中):2010年4月当時にギネス記録を樹立した4本足の受動歩行装置。ヒザの部分の枠のようなフレームは、歩幅を一定にさせるための仕組みで、これによってさらに受動歩行が安定するという。画像3(右):佐野教授の研究室と今仙技術研究所によって共同開発された無動力歩行支援機器のACSIVE