ロシア・ウラル地方のチェリャビンスク州に昨年2月落下した隕石履歴を明らかにする研究結果が出た。隕石の破片から、天体衝突に伴う超高圧・高温条件の下で生成したヒスイ輝石を、東北大学大学院理学研究科の小澤信(おざわ しん)助教、大谷栄治(おおたに えいじ)教授、広島大学大学院理学研究科の宮原正明(みやはら まさあき)准教授らが初めて発見した。地球落下の前にほかの天体と衝突したことを裏付ける証拠という。ロシア科学アカデミーとノボシビルスク州立大学との共同研究で、5月22日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。

写真. チェリャビンスク隕石から発見されたヒスイ輝石の電子顕微鏡写真。左が衝撃溶融脈内部で、黒色の部分が溶融した斜長石。右が溶融した斜長石からのヒスイ輝石(Jd)結晶化。ヒスイ輝石の周りは、急冷固化して非晶質(ガラス)になっている(Gl)。(提供:東北大学)

チェリャビンスク隕石は、高温にさらされて溶融した部分を内部に多く含むことから、地球に落下する前に大規模な天体衝突をしたと推測されていた。しかし、その明確な証拠はこれまで見つかっていなかった。

研究グループは、チェリャビンスク隕石の衝撃溶融脈の内部を電子顕微鏡で詳しく調べ、斜長石からヒスイ輝石が生成して結晶化している様子を確かめた。隕石を構成する主な鉱物の斜長石が、天体衝突の際の超高圧・高温条件下でヒスイ輝石に分解し、冷却するとそれが結晶化することが実験的にわかっている。ヒスイ輝石の結晶は、この隕石が地球に落ちる前に、天体と衝突した物証といえる。調べたチェリャビンスク隕石のかけら(直径1~2cm)約10個のうち3個でヒスイ輝石を見つけた。

さらに研究グループは、ヒスイ輝石の存在と衝撃溶融脈の冷却速度などを実験結果と照合しながら計算して、チェリャビンスク隕石の母天体に大きさ0.15~0.19kmの天体が、少なくとも0.4~1.5kmの秒速で衝突し、その際に少なくとも3~12万気圧の超高圧が発生したと推測した。

もともと太陽系の火星と木星の間にある小惑星帯で大規模な衝突を繰り返しているうちに、地球の公転軌道の近くを通る小惑星に変わり、隕石として落下するという説が有力視されている。チェリャビンスク隕石は高圧で生じる鉱物のヒスイ輝石によって、小惑星帯起源の履歴の一端が明らかになった。

この隕石は昨年2月15日午前に飛来し、空中で爆発、衝撃波で1500人以上が負傷し、7000棟以上が破損した。人口100万人以上の都会を襲ったため、多くの映像記録や目撃があり、隕石研究に刺激を与えた。落下する前は直径約15mの小惑星だったと推定されている。

研究グループの小澤信さんは「ほかの隕石にも天体との衝突の跡が見つかる。太陽系は衝突に満ちているといえる。チェリャビンスク隕石は地球落下の際の軌跡がよく記録されており、軌道計算がかなりできる。われわれが推定した他天体との衝突イベントを組み込んだ数値計算をすれば、この隕石の軌道がどのように変化してきたか、ある程度たどれる可能性がある」と話している。