九州大学(九大)は5月7日、魚類の鱗と貝類の接着力を併せて模倣し、水中で油を寄せ付けない「防汚性表面調製」のための防汚性を示す表面の簡単な手法を開発したと発表した。

成果は、九大 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 水素製造研究部門主任研究者/先導物質化学研究所/JST ERATO高原ソフト界面プロジェクト研究総括の高原淳主幹教授、I2CNER 水素製造研究部門学術研究員の馬偉(Ma Wei)博士、JST ERATO高原ソフト界面プロジェクトのHang Xu博士らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2月11日付けで国際学術誌「Advanced Materials Interfaces」速報版に掲載済みだ。

油を付着しない「超撥油性表面」は、「自己清浄性表面」、指紋付着防止、耐生物汚損、配管摩擦低減などのさまざまな観点から注目されている。しかし、これまでの超撥油性表面は一般的に親水性表面や微細凹凸などの複雑な構造を必要としていたため、そのような表面の調製はプロセスが複雑で、形成できる基材も限られているという課題があった。

自然界の中で優れた優れた撥油性・防汚性を示すのが、魚類の鱗の表面だ。魚の表面にはnm~μmスケールの階層的な凹凸構造があり、そして表面の親水性で、常に表面の水をとらえ、その表面の水の存在により油/魚の表面の界面エネルギーを不安定化させ、防汚性を示しているのである。

また近年、イガイなどの海洋生物の足糸に存在するある種のタンパク質が、貝類がさまざまな基板に接着するために重要であることが明らかにされてきている。その中でもポリフェノールに含まれ、ベンゼン環上のオルト位に2個のヒドロキシ(OH)基(カテコール基)を有するフェノール類の1種である有機化合物「カテコール」を含むアミノ酸「L-3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA)」が重要な役割を果たしており、DOPAを含む高分子材料が水の中でもさまざまな基板に接着することが明らかにされてきた。そこで研究チームは今回、魚の表面の水中超撥油性を模倣した性質と、イガイの基材への水中接着性を組み合わせ、水中超撥油性表面の設計に挑んだのである。

接着性のカテコール基を有する「メタクリル酸メチル(MMA)」と、「アクリルアミド」の側鎖にDOPAを導入したモノマーの「N-(3,4-Dihydroxyphenethyl)methacrylamide(DOPMAm)」との共重合体「poly(MMA-co-DOPMAm)」を「ラジカル共重合」により調製した結果、この共重合体はさまざまな種類の基板に水中で強固に接着することが確認された。なおラジカル共重合とは、複数種の化学的性質の異なる「モノマー」(高分子の繰り返し構造単位)のラジカル反応により高分子が成長し、複数種の成分が含まれる高分子を生成する反応のことをいう。

カテコール基はアミンと強固な共有結合を形成するため、poly(MMA-co-DOPMAm)薄膜表面にさまざまな高分子を固定化することが可能だ。そこで研究チームは、poly(MMA-co-DOPMAm)薄膜に対して正電荷を持つ「ポリエチレンイミン(PEI)」(「エチレンイミン」を重合した水溶性ポリマーで、現存する素材中で最も陽イオン密度が高く、また反応性に富んだポリマー)と負電荷を持つ「ポリアクリル酸(PAA)」(「アクリル酸」の重合体で、食品添加物として知られる)を「交互積層法(LBL)」で積層する手法を採用。なお交互積層法とは、正イオンを持つ高分子の溶液と負イオンを持つ高分子の溶液に交互に基板を浸漬することにより、ナノレベルの厚みの薄膜を調製する方法のことだ。

水中での慣性半径が大きい高分子量PAAを用いることで、表面には数10~数100nmの間隔で微細な凹凸が形成されることが原子間力顕微鏡観察により確認された。これは鱗の表面と同じような大きさだという。

水中での超撥油性を水中で油適を表面に近づけたときの挙動から評価した結果、「ヘキサデカン」のような油の油滴は表面に付着せずに真球状を保ち、表面から速やかに離脱することが確認された。この超撥油性表面の安定性は積層した高分子のアミド結合形成による「架橋反応」によって向上し、水中で2週間放置しても表面の微細形態と超撥油性を保っていることも確かめられている。なお架橋反応とは、高分子鎖の間に橋を架けるような反応により複数の分子鎖間がつながる反応のこと(架橋反応によって高分子は一般に溶媒に不溶となる)。

魚類の鱗の表面と貝類の接着成分の特徴を模倣した材料による、水中での挑発油性を示す表面の模式図

今回の研究で得られた、基材を選ばずにさまざまな材料表面を水中で安定に超撥油化する手法は、自己清浄性表面、指紋付着防止、耐生物汚損、配管摩擦低減などに展開でき、洗剤を使わない表面の清浄化手法、スマートフォンの指紋付着防止、さまざまな配管の液体との摩擦低減などに利用できる。これらはさまざまな観点から二酸化炭素の削減やエネルギー有効利用を導くものであるとした。