原始宇宙に多かったとされる中性水素ガスの存在を直接観測することに、東京大学大学院理学系研究科の戸谷友則(とたに とものり)教授と国立天文台や東京工業大学などの研究チームが初めて成功した。宇宙誕生後10億年の時代に発生したガンマ線バースト(大質量星の爆発現象)をハワイにある国立天文台のすばる望遠鏡で詳しく解析し、中性原子の割合が高い水素ガスによってガンマ線バーストの光が吸収されている兆候を捉えた。原始宇宙の解明に迫る成果といえる。日本天文学会欧文研究報告に近く論文を発表する。

図. ガンマ線バーストの解説と想像図

宇宙に存在する元素の主成分は水素である。宇宙が138億年前に誕生してから38万年後に、ビッグバンからの温度低下に伴い、原子核と電子が結合して電気的に中性な水素原子になって、晴れ上がったとされている。しかし、宇宙誕生後約10億年のころ、初代の銀河や星が形成されて紫外線を放ち、それによって水素ガスが再び電離したと考えられている。「宇宙再電離」と呼ばれる出来事だが、詳細はよくわかっていない。特に、再電離が起こる前の原始宇宙に存在したはずの中性水素ガスの観測が課題になっている。

グラフ. ガンマ線バーストGRB130606Aの可視光スペクトル。
赤枠で囲まれた「ライマンα線の吸収の減衰翼」の解析で、水素全体に占める割合で10%以上の中性水素ガスの兆候が得られた。

研究チームは米国の衛星が128億光年の遠方に見つけた明るいガンマ線バースト(宇宙誕生後10億年のバースト)をすばる望遠鏡で観測した。遠方のガンマ線バーストを2005年に観測した時は、中性水素ガスの兆候は見つからず、水素全体に占める中性水素の割合は20%以下という上限値を示すにとどまっていた。今回は2013年6月6日に発生したガンマ線バースト、GRB130606Aの可視光スペクトルを高精度に測定した。周囲にある中性水素ガスが吸収したために、スペクトルがわずかに変形していることを確かめた。データから「ガンマ線バーストの周囲の銀河間空間に、水素全体に占める割合で10%以上の中性水素ガスが存在している」と結論づけた。

戸谷友則教授は「再電離する前の原始宇宙で、中性水素が確かに存在した兆候を初めて捉えることができた。ガンマ線バーストは筋の良い観測対象だ。原始宇宙の中性水素の存在は、宇宙初期の銀河や星の形成がどのように起きたかを探る手がかりになるので、こうした観測は重要な意味を持つ。宇宙誕生から10億年以内の天体の観測は難しいが、人類は水素の再電離よりさらに前の初期宇宙の観測に踏み込みつつある。日本も参加して国際協力でハワイのマウナケア山頂への建設計画が進んでいる口径30メートルの巨大望遠鏡が完成すれば、原始宇宙の研究は飛躍するだろう」と話している。