液体表面近くで起こる電子移動反応をリアルタイムに観測するフェムト秒時間・角度分解光電子分光(TARPES)に、京都大学大学院理学研究科の鈴木俊法(すずき としのり)教授とドイツ・ヴュルツブルグ大学のロランド・ミトリック教授らの共同研究グループが世界で初めて成功した。この方法を使って、水溶液の表面近くの化学反応に伴う電子移動の様子を刻々と捉えた。水溶液中の化学反応の仕組みを解明する画期的な新手法になりうそうだ。成果は、米科学誌フィジカル・レビュー・レターズに近く発表する。
化学反応は、分子の外側に分布する電子の状態が変化して、原子間の結合が切断したり、形成されたりする過程である。電子の雲に覆われている分子は、水溶液の中で周りの環境から大きな影響を受けるため、裸の分子や有機溶媒中の反応とは異なる。この溶液中で高速に変化する反応を測定するのは難しく、溶液化学の理解を深める障害になっている。
鈴木俊法教授ら京大グループは、化学反応より速く光を照射できるフェムト秒時間・角度分解光電子分光装置を開発した。水溶液表面に浮かせた、かご状のアミン分子(DABCO)の電子が水中に移動する反応をこの新装置で測定した。まず60フェムト秒(フェムトは千兆分の1)の短時間に紫外域のレーザー光パルスを照射して、反応を開始させ、第2の60フェムト秒の紫外線パルスを使って、反応過程をリアルタイムに追跡した。
第2のパルス照射のタイミングを変えて、電子の挙動の時間的変化を捉え、移動の速度や方向を測定した。DABCOから出た電子は、水表面に捕捉されるのではなく、水の中に引き込まれていくことを確かめた。実験結果は、ヴュルツブルグ大学のグループによる、溶液中のDABCOの電子移動の理論モデルによっても裏付けられた。
鈴木俊法教授は「水溶液中の化学反応は生命現象にも重要なので、ぜひ電子の動きを見たかった。化学反応のスピードよりも速くレーザー光のフラッシュを当てる必要があり、1秒間に10万発の光を真空中に打ち込めるようにして、電子の動きを刻々と測定できる装置を開発した。10年以上前から取り組み、何度も試行錯誤した末、成功にこぎ着けた。この手法を使えば、溶液中の反応を詳細に電子レベルで理解することができるだろう」と話している。