ガリバーインターナショナル(以下、ガリバー)といえば、中古車買取のイメージが強い。しかし、買い取った車を販売する業務も近年は強化している。その施策の1つが、大規模な展示場を備えて車に対する新たな発見や気づきを促し、車を買う楽しさを提供する新しい形態の店舗「WOW!TOWN」だ。

「WOW!TOWN」の「WOW!」は、新しい発見・気づきへの驚きや喜び、車を買う楽しさやワクワク感を表し、「TOWN」は、複合モールで車のあらゆる要望に応える期待感を表現している。「WOW!TOWN」は、既存店にはなかった修理工場を備え、カーライフをトータルでサポートする。

同社は、2012年7月に1号店となる幕張店(千葉県)をオープンした後、その年の12月には大阪に箕面店と埼玉県の大宮店をオープン。今年は新潟にも新たな店舗をオープンする。いずれもコンセプトは共通しており、広大な敷地と、メーカーや車種ではなくライフスタイルから車を選ぶという形式を採用していることだ。

「WOW!TOWN」大宮店の店内

「WOW!TOWN」の車の展示方法は、メーカーや車種別ではなく、ライフスタイル別になっている。場内は、家族での買い物やレジャーを重視する「FAMILY」、アウトドアを含めてよりアクティブな用途の「ACTIVE」、デザインやイメージにこだわる「FASHION」、エコロジーを気にする「ECO&ECO」、そしてスポーツ走行など運転そのものを楽しむ「DRIVING PLEASURE」の5つのゾーンに分けられ車が展示されている。そのため、大宮店のは約2,500坪と広大だ。

「WOW!TOWN」では、基本的に営業マンは付かず、来店者が自由に店内を散策できる。代わりに、車選びをサポートするツールとして、iPadを顧客に貸し出している。1店舗目となる幕張では、iPadが利用されていたが、大宮店はより軽量なiPad miniを導入した。

来店者に貸し出されるiPad。幕張店ではiPadを利用していたが、大宮店ではコンパクトなiPad miniを採用

「WOW!TOWN」の車には、一般の中古車ショップにありがちな、車のフロントガラス貼り付けられた価格やスペック情報はない。代わりにQRコードだけが貼り付けられ、来店者は、それをiPadのカメラで撮影することで、詳細な車の情報を取得する。

来店者は、フロントガラスに貼り付けられたQRコードをiPadのカメラで読み取り、詳細な車の情報を取得

これにより、来店者の細かな嗜好が読み取れるようになり、ガリバーでは、この情報をリアルタイムに取得・分析することで販売戦略に活かしている。

再来店率向上のためにデータ分析を開始

WOW!営業推進セクション セクションリーダー 山畑直樹氏

敷地の広さや展示車の多さから「WOW!TOWN」の来店者は多く、既存店に比べ、概ね10倍程度の新規来店者を獲得しているという。「WOW!TOWN」は見物だけでも歓迎、という姿勢をとっているため、来店者のすべてが購入予定者というわけではないが、繰り返し来店してもらうことで最終的に購入してもらうというスタイルを目指している。 ただ、開店当初、大宮店の再来店率は、期待よりも少なかったという。そこで同店では、再来店率を向上させ、実際の購入へと至る道筋をつけるため、顧客データの活用を始めた。

「すでに、顧客データは4万件ほど蓄積されています。ビッグデータというよりはスモールデータという程度の量ですが、意識的に活用をはじめたことでいろいろと変わってきました」と語るのは、WOW!営業推進セクション セクションリーダーである山畑直樹氏だ。

再来店が少ないことに気づいて最初に行ったのは、過去の来店者1,500名を対象とした電話アンケートだ。

直営推進部WOW!事業戦略セクション 菰方清成氏

「とにかくお客様に聞きたかったのです。それで電話をかけまくりました。すると、基本的に8割のお客様が満足してくださっているのに、再来店していただけないことがわかりました。理由を追求した結果、店内の各ゾーンがうまく連携できておらず、ぎくしゃくしているというような声が多いことがわかりました。そうした声を参考に、最初に動画を見ていただくシアターからいろいろな情報を提供しつつ、スムーズに実際の車選びへと意識を向けてもらえる展示へと変えました」と、直営推進部WOW!事業戦略セクションの菰方清成氏は語る。

この取り組みの結果、15%程度だった再来場率が大きく向上。多い時期で27%、通常時でも23~4%にまで伸びたという。

また、iPadによって取得したデータの活用も始めた。利用しているデータは、iPad mini貸与時にアンケートで取得する来店動機等と、QRコードを通して見た車の閲覧履歴だ。

iPad閲覧履歴では、どの車を閲覧したかという情報はもちろん、どのエリアにどれくらいの時間滞在していたのかも把握できる。さらに、車両情報は基礎情報のほかに、詳細情報画面を閲覧したかどうかもチェックできる。そして、その閲覧履歴はリアルタイムに店舗側で取得することができるため、顧客が店内を散策している間に、営業マンは、顧客への対応方法を検討できるのだ。

「最初のアンケートで、ある程度、購入意欲があるかどうかはわかります。お客様の中には、近々、車を購入するつもりという人もいれば、散歩のついでに寄ったという人もいます。一方、閲覧履歴からは、どういった車種に魅力を感じているのかを読み取ることができます。さらに、iPadで閲覧した車に一定の傾向があれば、より具体的に購入車種を検討している確率が高いので、他店在庫をPCで見せるといったアプローチをします。逆に統一性がない時には、購入はまだ先というお客様であることが多いですね。そうした方の場合、車選びのきっかけになるようなことを提案します」と山畑氏は語る。

iPadの閲覧情報は、商談コーナーのPCに移項でき、大画面で営業マンと一緒に見ながら相談できる

また、顧客からデータを取得するだけでなく、対応した営業担当者の行動も記録している。その結果見えてきたのは、意外な事実だった。

企業では、「できる営業」のノウハウを社員間で共有し、営業マンスキルの底上げを図るという対策はよく行われるが、「WOW!TOWN」においては、営業マンのスキルに大きな差はなかったのだという。

「購入意欲の高いお客様の場合、誰が対応してもそれほど成績に違いはありませんでした。つまり、いままで成績が良いと言われていた人は、買いそうな人を見分ける目を持っていただけなのです。単にそういう人を見つけて、駆け寄るのが早かっただけなのかもしれません」と菰方氏は笑う。

購買欲のある人を見分ける目がノウハウであるともいえるだろうが、同店ではそれをデータから簡単に把握できるようにしたことで、誰もが確率の高い営業活動をできるようになった。その結果、大宮店では、購入意欲の高い人の40%程度が実際の購入に至っているのだという。

「今日のところは見るだけ」と思っていたところに営業マンからしつこく食い下がられて嫌な気分になった、というようなことは、どの業種でもある話だ。iPad miniを通した情報で来店者が何を望んでいるのかが見えるようになったことで、具体的な商談につなげるべき相手なのかどうかがわかるようになったのだ。

主にデータ分析を担当しているという菰方氏が繰り返したキーワードは、「お客様に迷惑をかけたくない」というものだ。売り手の都合で作った構成の店舗や、売ることばかりに熱心で買う気がないのにしつこくまとわりつくような行動をなくすことで、気持ちよく利用してもらうことを目指しているという。

「最初の来店で購入していただく必要はありません。長く通っていただき、最終的に購入していただけるというのが最高だと思っています」と菰方氏は語った。

中古車販売のセオリーから外れた新しい視点

「WOW!TOWN」ではデータ分析以外にも、おもしろい取り組みをいろいろと行っている。たとえば、基本的に中古車販売店ではあるのだが、各メーカーの新車も扱うようにした。中古車と新車を並べて展示したところ、中古車のコストメリットなどが強調され、販売成績は向上したという。

また、不人気なカラーの車をあえて目立つように展示したところ、カタログでは見映えのしなかった色でも、実車ならば特に問題ではないと感じる人が多く、購入が伸びているという。

そのほか、タウン誌にレジャースポットのような形で紹介してもらったり、店舗内の広いスペースを活用して「赤ちゃんはいはいレース」のようなイベントを行うことで、主要ターゲットであるファミリー層へのアピールを行っている。

店内に設置されたキッズルーム。監視カメラが設置され、iPadの画面で室内の様子を確認できる

「これまでは男性が主体で選ぶ、ファミリーならばお父さんが一人で車を見に来る、というようなところがありましたが、WOW!TOWNでは充実したキッズスペースやイベントによってお子様にとって楽しい場所にして、それを魅力に感じたお母さんが先頭に立って家族で来店してくださる、というような形になってきています」と山畑氏は語る。

具体的な購入意欲が出てくる前の段階から「WOW!TOWN」に親しみを持って貰い、いつか車が欲しくなった時の第一選択肢になることが同社の目標だ。

iPad miniを通して集めた同社のデータ分析はまだ始まったばかり。今後は、さらなる分析を行うことで、より魅力的な店舗と対応を作り出す継続的な改善を実施していくという。

取材に対応していただいた山畑氏(右)と菰方氏(左)