将来的にスタートメニューが復活する。MicrosoftのOperating Systemグループ担当EVP(エグゼクティブ・バイスプレジデント)であるTerry Myerson氏がBuild 2014で明らかにしたのは既報のとおりだ。
Windows 8.1におけるスタートボタンの復活や、Windows 8.1 Updateのスタート画面に対するコンテキストメニューの採用を踏まえれば、既定路線といえなくもない。年内にリリースされる可能性がある「Windows 8.1 Update 2 (仮称)」、もしくはコード名「Threshold (スレッショルド)」で開発中の「Windows 9 (仮称)」で復活するのは確実だろう。今回はあらためてWindows OSとスタートメニューの関係について整理したい。
Windows OSにおいて最初にスタートボタン/メニューを採用したのは、1995年にリリースしたWindows 95である。その前バージョンであるWindows 3.1では、アプリケーションを起動する際にファイル管理アプリケーションである「ファイルマネージャ」から実行形式ファイルをダブルクリックするか、ランチャーである「プログラムマネージャ」を使用していた。独自のバイナリ形式ファイルでグループを管理するため、まれに破損して再登録を求められたこともあった。
そして、Windows 95はタスクバーとスタートボタンを用意した。ワンクリックでOSの機能やアプリケーションへアクセスできる操作形式は、Windows OSのスタンダードとなり、2009年リリースのWindows 7まで受け継がれたのは、ご承知のとおりである。デスクトップの左下に常時存在し、コンピューター初心者にも安心感を与えた側面は評価すべきだろう。
だが、Windows 8のベータ版に相当するコンシューマープレビューを目にした時、多くのユーザーは驚いたはずである。2011年9月に配布したデベロッパープレビューでは、デザイン変更はあったもののスタートボタンは存在していた。だが、コンシューマープレビューになると消えたからである。2012年8月(パッケージ版は同年10月)にリリースした正式版でもスタートボタンが復活することはなかった。
スタートボタンの廃止を断行したのは、当時WindowsおよびWindows Live部門の責任者だったSteven Sinofsky氏だ(2012年11月に退社)。入社当初はOffice 95の開発主導を担当し、後にOffice 2007から採用したリボンUIを推し進めたのは同氏である。当時、スマートフォンやタブレット、組み込みデバイスによって勢力を拡大していたARMアーキテクチャーに対し、Windowsは転換期を求められていた。そして実装したのがモダンUIである。
颯爽と登場したモダンUI、すなわちWindows 8だが、市場の反応は決して好意的ではなかった。Windowsストアアプリも出そろわず、当時Windowsストアアプリ版のリリースを発表した某アーケードゲームは、それから数年経った現在もWindowsストアで目にすることはない。もちろん、スタートボタンの搭載を見送ったことが全てではないものの、Windows 8不評の一因となったのは確かだ。
やがて、MicrosoftはWindows 8.1でスタートボタンを復活させたのだが、ユーザーが欲していたのはボタンではなく、メニューそのものだった。確かにクイックアクセスメニューは使いやすく便利であることに異論はない。だが、多くのユーザーが求めていたのは「スタートボタンをクリックすれば、機能やアプリケーションにたどり着ける安心感」だったのではないだろうか。残念ながら当時のMicrosoftはCEOの交代劇も相まって、そこに至らなかったようだ。
さて、冒頭のようにMyerson氏はスタートメニューの復活を公言した。従来のスタートメニューとは異なり、メニューの右側にはWindowsストアアプリのタイルが並んでいる。Build 2014のキーノートで公開されたデモンストレーションでは、スタート画面と同じくタイルをドラッグ&ドロップで並べ替えていた。Microsoftがユーザーの声に応えた現時点の回答が、従来のスタートメニューとスタート画面の融合なのだろう。
Sinofsky氏はスタートメニューを否定し、モダンUIやスタート画面を導入したが、ユーザーはそれを拒絶した。Sinofsky氏の退社後にスタートボタンを復活させたが、非難の声はとどまらない。そして、Myerson氏はスタートメニューを復活させる。この動きは"先祖返り"と言えるだろう。
もちろん、スタートメニューが復活するのであれば、多くのユーザーは歓迎するだろう。だが、2015年にWindows 9 (仮称)でスタートメニューが復活するのであれば、2012年から2015年の3年間を無駄にしたことにならないだろうか。ちょうどWindows XPの次期OSとして開発が始まった「Blackcomb (開発コード名)」のように。
筆者もスタートメニューの復活を素直に歓迎するが、Microsoftは迷走しているのではないだろうかと訝しんでしまう。多岐亡羊からの脱却を心から期待したい。
阿久津良和(Cactus)