より発見性を高めるには

最近では自分の好きなジャンルやアーティストから複数のステーションを作って、これを切り替えながら1日に1曲以上は新しい音楽と出会えるようになった。筆者にとっては大きな進歩だった。しかし音楽の進化は、まだまだ行われていきそうだ。

米国にあるEcho Nestは、音楽のビッグデータ解析に取り組む企業だ。楽曲の解析、アーティストの解析、ソーシャルメディアやブログを中心としたファン行動の解析を行い、アーティストや楽曲に関する情報収集や、最適なプレイリストの出力などを行うことができる。これにより、自分の好みだけでなく、楽曲のつながりの心地よさや、発見性を確保した選曲を実現している。日本では、「Music Chef」というアプリで、Echo Nestのエンジンを体験することができる。

Appleは、ソーシャルメディア解析のTopsy Labsを買収したが、iTunes Radioの選曲にこうした情報を活用する可能性もある。また、App Storeには「Near Me」(近くで人気)というタブが追加されている。位置情報を使って、周囲でダウンロードされているアプリを紹介するものだ。これをiTunes Radioに導入するだけで、その地域でよく聴かれている音楽を紹介することもできるだろう。

例えば、東京の中でも、渋谷、表参道、銀座、秋葉原といった細かい地域性があり、それを楽しむことができるようになることも、新しい音楽との出会いを演出してくれそうだ。東京ドームや武道館のでライブがあるとき、その動員に合わせてその周囲にアーティストの楽曲が影響を与えるアルゴリズムも面白いのではないだろうか。

動的に変わるその街の音楽を拾い集めるという、新しい音楽体験。音楽試聴のモバイル化、スマートフォン化と、背後にあるデータの解析によって、こうした新しい体験が実現可能になっている。今までとは違うが面白い音楽の発見の方法を、iTunes Radioに対応したiPhoneが提供してくれるようになる未来を想像しつつ、iTunes Radioの日本導入を待ちたいところだ。

松村太郎(まつむらたろう)
ジャーナリスト・著者。米国カリフォルニア州バークレー在住。インターネット、雑誌等でモバイルを中心に、テクノロジーとワーク・ライフスタイルの関係性を追求している。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、ビジネス・ブレークスルー大学講師、コードアカデミー高等学校スーパーバイザー・副校長。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura