――TVシリーズから劇場版まで、一貫して「人間らしい」ヒーローたちが描かれ、それが同作品の魅力につながっているように思います。西田さんが魅力的でリアルな人を描くために、脚本中に加えた工夫などあればお教えください。

タイバニは(実写作品ではなく)アニメ作品なので、汗をかかせたり、匂いや温度、質感だとか、そういったものをどこかしら感じさせるエピソードを書くようにしているところはあるかもしれません。

たとえば、TVシリーズの終盤で「まつげ」というキーワードが出てきます。まつげって、実際の人間同士ではあまり意識して見る部分ではないじゃないですか。でも、あえて虎徹が相棒のまつげに言及することで、"生っぽさ"が出るのではないかと考えて書きました。 「現実にキャラクターがいたら、その目からは何が見えているのか?」というところをすごく考えています。だから、ちまちましたエピソードを入れることで、血が通ったキャラクターにしていっているつもりです。

『The Rising』場面カット

――例に挙げていただいた、TVシリーズ終盤で重傷を負った虎徹が、気を失う直前にバーナビーのまつげに言及したシーンはかなり話題になりました。『The Rising』ではこのような仕掛けを忍ばせた部分はありましたか?

とは言っても、意図的に"仕掛けている"感じではないんです。まつげのくだりは僕が実際に演じながら考えました。あそこで「今までありがとな」のような、自然に出てくる台詞は、どうしても書きたくなかったんです。虎徹らしくない気がして。だからあの時は、僕のアシスタントに兒玉君という人がいるのですが、彼がバーナビー、僕が虎徹の役をやって、劇中通り彼が僕のことを抱える格好を取りました。その状態で、「こんな場面で虎徹は何を言うかな?」と考えていきました。

そして、何かを言おうとした虎徹は、ふと目についたことを言っちゃうのかもしれない、と感じたんです。この場面ではお互いの距離が近いから、最初は「近いな、おい」みたいなセリフを書いていたと思うんですが却下して、違う表現を突き詰めていったら、「お前、まつげ長ぇんだな」というセリフに行き着きました。

このセリフは、アニメーションの動きだけで考えていたらあまり出てこないものかもしれません。だから、実際に動いてみるのが大切だと思います。例えば、さきほどのシーンだったら、虎徹からしたら、自分を抱えるバーナビーのスーツが体に当たって、痛いかもしれない。そういうことをやってみることで気づくことがあって。実際になるべく動いたり声に出したりするようにしています。そんなことも、ストーリーやキャラクターが生っぽくなっている一因となっていたら嬉しいですね。ちなみにバーナビーの「チャーハン」発言も、自分の中では色々な理由があって書きましたが、その話はまた。

成績優秀だが天然キャラのスカイハイの決めぜりふも、体を動かしたからこそ生まれたものだった

――体を動かしたからこそ出てきたフレーズや展開などはありますか?

スカイハイの決めぜりふ「ありがとう、そしてありがとう」もそうかもしれません。TVシリーズの脚本執筆当時、どうしたら彼が天然キャラであることが端的に伝わるのだろうかと思ってかなり悩みました。そして、決めゼリフのようなものを考えて行く中で、言い換えているつもりで同じことを言っていたどうかなと思いついたんです。確か、これを思いついた場所はファミレスだったかと思うのですが、その時も自分の口に出して言っていました。語呂がいいという要素も、自分の中でとても大切にしているので。このフレーズに決めたのも、口に出してみていいな、と思ったからです。