国立極地研究所(極地研)は1月10日、仏・ブルターニュ大学、米キングスボロー大学、アメリカ自然史博物館との共同研究により、南極で過去に採集した隕石「Y-82094」(画像1)の分類を同研究所の南極隕石ラボラトリーが再検討した結果、既存の「炭素質コンドライト」のどのグループにも属さない新種の隕石であることが判明した発表した。

成果は、茨城大学 理学部理学科 地球環境科学コースの木村眞 教授(極地研にも所属)、極地研 研究教育系地圏研究グループ/極域情報系極域科学資源センターの今栄直也 助教(総合研究大学院大学(総研大)にも所属)、極地研 研究教育系地圏研究グループ/極域情報系極域科学資源センターの山口亮 助教(総研大にも所属)、極地研 研究教育系地圏研究グループの小島秀康教授(総研大にも所属)、ブルターニュ大のJean-Alix Barrat教授、キングスボロー大/アメリカ自然史博物館のMike K. Weisberg氏らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2月に国際隕石学会誌「Meteoritics & Planetary Science」に掲載される予定だ。

画像1。Yamato-82094隕石の外観

炭素質コンドライトは、最も始原的な特徴を持つ隕石種である。原始太陽系星雲(原始惑星系円盤)から凝縮して形成したとされる物質の「コンドルール(コンドリュール)」(コンドライトに区別される隕石に含まれている球状の粒子)や「難揮発性成分」が、ほとんど変化を受けずに保存されているのが特徴だ。なお炭質コンドライトは、さらに細かくCI、CM、CV、CR、CK、CO、CHといった化学グループに分類されている(2文字目のアルファベットは、そのグループを代表する隕石のアルファベットがつけられている)。ちなみに探査機はやぶさが訪れた小惑星イトカワや、2013年2月にロシアに落下したチェリャビンスク隕石などは、コンドライトだ。

第23次南極地域観測隊(JARE-23:1982~83)によって採集された隕石の中に、ユニークな「CO3コンドライト」として分類・公表されていた試料がY-82094である。南極で採集された隕石は1万8000個に近い膨大さのため、現在も分類作業が進められているところだ。そしてY-82094の再検討がなされたところ、類似の隕石がなく、既存の炭素質コンドライトのどのグループにも属さない新種の隕石であることが判明したというわけだ。組織および主要構成鉱物の化学組成の決定には、極地研の走査型電子顕微鏡および「エレクトロンプローブマイクロアナライザー」が用いられた。また、全岩化学組成はBarrat教授によって「ICP質量分析計」を用いて測定されている。

この隕石の特徴は、以下の4点だ。(1)コンドルールの存在度が高く、中でもマグネシウム成分に富む「TypeI」のコンドルールが多いが、2価の鉄成分に富む「TypeII」のコンドルールや細粒の「マトリックス」(コンドルール以外の微細な鉱物で構成されている部分)は少ない。(2)コンドルールとマトリックスの存在度は普通コンドライトに類似するが、炭素質コンドライトを特徴付ける難揮発性包有物を含む。(3)全岩組成は概ねCOに類似するが、揮発性元素はCOより著しく欠損している。なお、このCOとは一酸化炭素のことではなく、前述した炭素質コンドライトの詳細分類の1つ。(4)全岩酸素同位体比は始源的なCO3と類似するが、コンドルールの平均的な大きさはCO3よりやや大きく、金属鉄の存在度も特にコンドルール内でより高い。

以上の観察結果に基づき、以下のような結論となった。(1)当初考えられていたCOグループには属さない。(2)難揮発性包有物の存在度や酸素同位体組成はこの隕石が「Rコンドライト」や「普通コンドライト」など他種のコンドライトではなく炭素質コンドライトであることを示す。(3)組織や鉱物組成は母天体で軽度の熱変成作用を受けていることから、「岩石学的タイプ」は3.2である。なお岩石学的タイプとは、コンドルールの明瞭度によって、3~6に分類される、熱変成の度合いを反映した指標だ。ちなみに1と2もあるが、水質変成度を表すのに用いられる。

画像2はY-82094の、画像3は普通コンドライト隕石「ALH-77035」の、画像4は炭素質コンドライトのCV隕石「Y-980010」の、画像5は同じくCO隕石「Y-81020」の幅2mm角の薄片写真。Y-82094はコンドルールの大きさ、存在量の点で普通コンドライトに類似し、CVおよびCOコンドライトとは異なる。マトリックスもY-82094は普通コンドライトに類似する。しかし、ほかの岩石学的、化学的性質は炭素質コンドライトであることを示しており、どれにも分類されないというわけだ。

画像2。Y-82094

画像3。普通コンドライトのALH-77035

画像4。炭素質コンドライトCVのY-980010

画像5。炭素質コンドライトCOのY-81020

結果、この隕石は新種の炭素質コンドライトと結論され、世界の隕石コレクションに類似する隕石は認められず、また「やまと隕石」のコレクションの中にもY-82094のペアと考えられる隕石は見当たらなかった。なお、今回従来に分類されない隕石が発見されたからといって、すぐに炭素質コンドライト内の新グループがカテゴライズされるわけではない。同様の特徴を持った隕石が4個以上発見されることで新グループが作られる可能性があるという。

ちなみに、前述したように日本の南極観測隊はこれまでに総数1万8000個に近い隕石を収集しており、それを管理し、初期分類作業を進めているのが南極隕石ラボラトリーだ。またやまと隕石とは、南極の昭和基地から300kmほどのやまと山脈(別名クイーン・ファビオラ山脈)などでその多くが発見されたことなどから日本の隕石コレクションのことをいう。実はやまと隕石は南極で発見された隕石の内の約60%、全世界で見ても約50%を占めているという膨大なコレクションで、中には月由来や火星由来のものまで含まれている。

これまでに分類の終わった隕石は、国内外の研究者と共同で分析が進められているため、今後も、新しいタイプの隕石が発見される可能性が高いという。これらの隕石を研究することで、太陽系の物質進化過程に大きな知見を与えることが期待されるとする。特に炭素質コンドライトは、初期太陽系形成史を理解する上で、非常に重要な試料だ。このように極地研の保有する多数の隕石は隕石の分類学のみならず、それに基づく原始太陽系における惑星物質の形成に関する知見を拡大するのに大いに有用であり、さらなる試料の分類、研究が重要だとしている。