アップル専門誌『Mac Fan(マックファン)』にて、2003年より連載中のレポート漫画「Xてんまでとどけ」がこの1月末に初単行本化。しかも、Webで予約した場合は電子書籍が無料でダウンロードできるという画期的な試みを採用している。作品について、そして電子書籍を単行本に付けた意味を著者である鈴木みそ氏に聞いた。

鈴木みそ (すずきみそ)
1963年8月12日生まれ。編集者としてキャリアをスタートさせ、1987年漫画家としてデビュー。現在『Mac Fan』をはじめ複数誌にて作品を連載している。また、電子書籍に関する造詣も深く、講演会なども行っている。
オフィシャルHP「ちんげ教
『Xてんまでとどけ アイゾー版』予約サイト

使えるくらいまでアップデートしたら買うぞ!

──『Mac Fan』連載中の漫画『Xてんまでとどけ』の単行本が1月23日に発売されます。アップルの話を中心にWindows、周辺機器、幅広い内容で11年間に亘るみそさんのガジェットにまつわる紆余曲折が読めますね。

鈴木みそ この連載を始めた2003年、実は僕、MacからWindowsに乗り換えた時期だったんです。Macをさんざん仕事で使い倒して、「やっぱり使えない! Windowsがいい」と感じて30万円程かけて自作。PCっておもしろいなぁと思っていた矢先に話が来ました。

──ご自身の方向性とは真逆の場所からオファーが来たと。

鈴木みそ そうなんです。当時僕が持っていたマシンに Mac OS Xを入れても動かないし、新製品を買う予定もない。ならば入れてスイスイ使えるくらいまでアップデートしたら買うぞ! と。そういう思いを込めて「Xてんまでとどけ」というタイトルにしました。連載当初はWindowsがメインPCでしたが、11年経った現在は、家族、親戚も含め皆アップル製品のユーザー。Mac→Windows→Macと原点回帰している感覚ですよ。スマホに関しても、残るは嫁のガラケー1台のみで、ここは最後の砦として死守しないといけないのかなって。

──では、現在はどっぷりMacに浸かっている状態なのでしょうか。

鈴木みそ 正直、どっぷりというわけではないんです。あえて、ライトユーザー的な目線で使っていますね。それにMacでは使えないソフトウェアがあるのは事実、仕事では今もWindowsです。Mac、Windows、両方使っているからこそのバランス感覚を大事にしながら連載に落とし込んでいるつもりです。

──作品内では、MacBookを分解して破壊したり、新製品を購入し使い倒したり、ガジェットに対する熱量はすさまじいですね。その原動力の源とは?

鈴木みそ やっぱり好きだからですよ。もっと便利になってほしい、だからこそ夢中になれるんです。毎回面白そうなアップルトピックスを「あーだ、こーだ」言いながら描いていますが、その瞬間に旬な物を作品内で取り上げてきた自負はあります。「いいもの見つけた! 誰かに伝えたい!」、その気持ちの繰り返しで11年間続けてこれたと思います。それにガジェットが進化したときに、人類がどう変化するのかも興味深いですね。

純粋に読者として電子版がほしい

──本作品は、オンライン予約の場合単行本に電子書籍版が付く画期的な販売方法を採用していますが。

鈴木みそ Mac Fan編集部から「予約分の限定になりますが、電子と紙合わせましょう」と提案をもらったんです。僕も、購入者は"読む権利"があるので、紙を手にしたら電子が同時に付いてくるのは当たり前だと考えていたので大賛成でした。ことの顛末は、僕の公式ブログ『ちんげ教』に書いてますが、いろいろ問題が山積みでしたね(笑)。ただ、僕は純粋に読者として、紙を買っても電子版がほしいし、より利便性を高めたいんですよ。それで、電子書籍がもっと普及してほしくて、このシステムでの販売を選んだんです。だからこそ、ぜひ皆さんに手にしてもらえたらなと思います。 個人的には、一度購入したら、その権利をできれば永久に、無理だとしてもしばらくは奪わないでほしいなと考えています。それに、デバイスを選ばずに、一度手に入れた作品は読みたいですね、その流れを作家側が止めていたら時代が逆行すると思うんです。

『Xてんまでとどけ アイゾー版』(マイナビ/1,400円)

──読む権利ですか。みそさんは電子書籍は権利を保証することでより普及するとの考えなのですね。

鈴木みそ そうですね。紙は100年残るものなのに、データはひょんなことで壊れます。しかも、デバイスを選ぶ場合もある。電子で所有するということは実物がないということ、だからこそ読む権利を保証してほしい! 一読者として、一番使いやすい形で作品を提供するべきだというスタンスから、今回の件は全てが始まっています。そこがブレなければ、今後、電子書籍はもっと発展するはず。まずはユーザーの利便性を第一に考えることが大事なのだと思います。

──ユーザーの利便性を意識し、作品を提供。電子と紙の橋渡し的な役割を今回の販売方法では感じました。それは作品の持つ専門的な内容を読者目線で描き、次のステップへ導く部分と共通していますね。

鈴木みそ 1話あたりの情報量は少ないですが、物語的手法を使い、絵と会話を使い漫画で提示することで受けての理解度を高められるのではないかと考えています。僕が思うのは、作品内で取り上げてきたPCやガジェットは完成品ではなく、次のバージョンに向けて過渡的なもの。そして出版に関しては電子書籍と紙も同じように過渡期を迎えています。 本作を読んで頂く事で、今も残っているもの、そして消えたもの、時代と共に製品が歩いてきた道が見えるのではないかと思います。と同時に、販売方法も主流になるか、廃れるかはわかりませんが、今後の出版業界が進む道におけるひとつのマイルストーンになるのではないかとは思います。ここで終わりというのではなく、次はどうなるのか、劇的に変わる瞬間に向けての道筋を垣間みれるような内容と取り組みで今後も活動していきたいと思っています。