ニュージーランド時間の2013年10月18日、日本は時差の関係で前日17日の20時から販売するWindows 8.1。残すところ約10日間となったWindows 8.1のリリースだが、それに伴い日本マイクロソフトは日本国内向けパッケージ版の写真および参考価格を発表した。詳細は本誌の記事をご覧いただきたいが、現在Windows 8を使用中のユーザーはWindowsストア経由で無償アップグレードが可能である。

問題はWindows 7やWindows Vista、Windows XPなど以前のOSを使っているユーザーだ。そのまま各OSを使い続けるのではなく、同じコンピューターでWindows 8.1への移行を予定しているユーザーは、いくつか注意しなければならない。そもそもWindows 8.1はこれまで独立したパッケージとして販売してきたアップグレード版を用意していない。そのため、以前のOSからのアップグレードパスが著しく制限されているのである。

また、日本マイクロソフトはWindows 8.1販売に伴い、Windows 7パッケージ版の出荷を終了すると発表した。デスクトップ環境でWindows OSを利用するユーザーや、サポート終了が目前に迫るWindows XPからの移行先として人気の高いWindows 7の販売終了は、多数のユーザーに大きな影響を与えるだろう。今週はWindows 7の販売終了に至る背景や、Windows 7およびWindows XPユーザーがWindows 8.1へアップグレードする際の注意点などをレポートする。

価格決定したWindows 8.1はアップグレードインストールに注意

10月4日、日本マイクロソフトは国内向けWindows 8.1のパッケージ販売および価格を発表した。既報のとおりWindows 8.1はアップグレード版は用意されず、新規インストールを前提(前バージョンからのアップグレードも可能)としたパッケージ/ダウンロード版の2種類のみとなる。エディションはWindows 8/Windows 8.1/Windows 8.1 Pro Packを用意し、それぞれの参考価格は2万5,800円/1万3,800円/1万2,800円。すべて税抜き価格だ。前者2つは32ビット版および64ビット版セットアップDVD-ROMを同梱(どうこん)するが、Windows 8.1 Pro Packはメディアが含まれず、プロダクトキーのみ同梱する。主な構成および価格はWindows 8と同じだ(図01~03)。

図01 Windows 8.1パッケージ版

図02 Windows 8.1 Proパッケージ版

図03 Windows 8.1 Pro Packパッケージ版

興味深いのは、同社のプレスリリース末尾に記載された1文だ。「Windows 8.1のパッケージ製品発売に伴い、2013年10月末をもって弊社からのWindows 7のパッケージ製品の出荷を終了」と記載されている。Windows XPからの移行先、およびモダンUIを避けてデスクトップ環境を求めるユーザー向けOSとして人気の高いWindows 7の販売終了は、ユーザーの選択肢を狭める要因とならないだろうか。なお、米国本社でも同じような処置を行うかとMicrosoftのNews Centerを確認してみたが、そもそも"Windows 8.1をリリースする"というプレスリリースすら存在していないようだ。

日本マイクロソフト独自の対応とみるのが正しいようだが、メインストリームサポートが2015年1月13日に終了し、延長サポートフェーズが残されていると言え、1年強でサポート終了となるWindows 7を販売し続けること自体が異常であり、同社の判断は正しいと言えるだろう。穿(うが)った見方になるかも知れないが、同社としては、Windows 8/8.1で採用したモダンUIを前面に押し出し、これまでWindows OSを支えてきたデスクトップ環境との決別を意味しているのだろう。

だが、エンドユーザーの立場に立つと、そうとも言い切れない現状がある。あくまでもデスクトップ環境にこだわるWindows XPユーザーは、移行先としてWindows 7を選択する予定の方が多いだろう。今回の販売終了がパッケージ版に限らず、DSP(Delivery Service Partner:メモリーなどデバイスと同時購入を条件とする販売形態の1つ)も含む場合は、早期に購入すべきだろう。法人ユーザーに至っては既存環境の維持が最重要課題となるものの、サポートフェーズの問題からWindows 8/8.1へ移行するのがベストな選択肢となる。

互換性のないデバイスやアプリケーションと出くわした場合、コンピューターをリース契約で利用する法人ユーザーには難しいが、個人ユーザーであれば、デバイスの換装や類似アプリケーションを選択すれば済む話。もっともリリース直後からWindows 8をメインOSと使ってきた筆者だが、Windows 2000以降リリースされたアプリケーションの実行で困る場面はほぼ皆無。逆に古いデバイスは64ビット版デバイスドライバーが提供されないケースが多いため、何らかの対応を迫られたのは事実だ。

Microsoftおよび日本マイクロソフトも下位互換性を維持するために、「Windows互換性センター」をWeb上に設置し、Windows 8/8.1で動作する古いデバイスやアプリケーションの情報を提供中。このように下位互換性を蔑(ないがし)ろにしていないことはサポート体制を見ても明らかである(図04)。

図04 下位互換性を確認できる「Windows互換性センター」

現在Windows 8を利用しているユーザーは、日本時間10月17日の20時から、Windowsストア経由で無償アップグレードが可能だが、Windows 7以前のユーザーはいくつかの注意が必要となる。Microsoft Storeや家電量販店などからパッケージ/ダウンロード版を購入するのは当たり前だが、Windows 7の場合、アップグレードインストールの範囲が「個人用ファイルのみを引き継ぐ」しかサポートされていない。つまり、Windows OSの設定やデスクトップアプリが移行されないのだ。

他方でWindows XPユーザーの場合、Windows 8.1セットアッププログラム自体が起動しないため、新規インストール以外の選択肢が用意されていないのである。いずれによせ、新規インストールした方が安全かつ確実なのはWindows OSの常だが、Windows 7はアップグレードインストールが制限され、Windows XPは新規インストールしか選択肢がないことを承知してほしい(図05~06)。

図05 Windows 7上でWindows 8.1のセットアップを実行中。<個人用ファイルのみを引き継ぐ><何も引き継がない>のどちらかしか選択できない

図06 Windows XPの場合、セットアップ自体が起動できない

新規インストールを選択した場合、過去のコンピューターからユーザーアカウントやユーザーファイルを新しいコンピューターにコピーしなければならず、「Windows転送ツール」が役立つのだが、こちらも注意点が残されている。Windows 8.1をインストールしたマシンには同ツールが展開されるものの、単独で起動する術が用意されていないのだ。以前のセットアップDVD-ROMには「\support\migwiz\migsetup.exe」が用意され、同ツールを起動できたが、Windows 8.1のセットアップDVD-ROMには、ファイルどころかフォルダー自体が存在しないのである(図07)。

図07 Windows 8.1セットアップDVD-ROMに、「Windows転送ツール」を実行するための「\support\migwiz\migsetup.exe」は用意されていない

Windows 8.1上ではスタート画面から起動可能なWindows転送ツールだが、そのメッセージにも注目したい。図08をご覧になるとわかるようにサポート対象はWindows 7以降。Windows XPの動作は保証されていないのだ。そもそもWindows XPは3世代前のOSであり、そこまでの手厚いサポートを期待するのは酷かも知れないが、日本国内におけるWindows XPのシェア(占有率)を踏まえると、Windows転送ツールの互換性は残してほしかった。いずれにせよ現在Windows XPを利用し、Windows 8.1への移行を予定する方は、サードパーティー製データ転送ツールを用意しなければならないだろう(図08)。

図08 Windows 8.1と一緒にインストールされた「Windows転送ツール」。対象はWindows 7以降となり、Windows XPはサポートされていない

阿久津良和(Cactus