慶應義塾大学(慶応大)は9月19日、胃がんに対する「センチネルリンパ節(見張りリンパ節)」生検の有用性に関する臨床試験を行い、有用性が高いことが明らかになったと発表した。

成果は、慶應大 医学部外科学教室 一般・消化器外科の北川雄光 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月9日付けで米医学誌「Journal of Clinical Oncology」オンライン版に掲載された。

内視鏡治療の進歩により、リンパ節転移のない早期胃がんはリンパ節郭清を省略し、がんを内視鏡で局所的に切除するだけで治ることがわかってきている。しかし、現状では治療前の画像診断だけでリンパ節転移の有無を正確に判断することはできない。そこで早期胃がんでもリンパ節転移の疑いが少しでもあれば、これまでリンパ節郭清を含む標準的な胃切除術が行われてきた。しかしリンパ節転移の有無は、胃がん患者の予後にも大きく関わる問題だ。そこで正確にリンパ節転移の有無を知る方法として注目されたのが、センチネルリンパ節生検だ。

センチネルリンパ節とは、固形がんから直接リンパ流を受けるリンパ節のことであり、がんのリンパ節転移が最初に起こる場所と考えられている。仮にこのセンチネルリンパ節を手術中に正確に見つけ出すことができれば、センチネルリンパ節にがんの転移がない症例では、広範な臓器切除やリンパ節郭清を省略することが可能と考えられているという。

これまで乳がんや皮膚がんではセンチネルリンパ節生検が保険適応となり、腋窩リンパ節郭清の省略によって術後の腕のむくみや神経障害を予防できるようになった。しかし胃がんにおいてはセンチネルリンパ節生検が可能かどうかこれまで明らかではなかったのである。

今回、北川教授が中心となり、全国の12施設で400例以上の患者(胃がんの直径が4センチ以下で、手術前画像検査ではリンパ節転移がなく、がんの深さが漿膜下組織までにとどまる比較的早期の胃がん)を対象に、胃がんに対するセンチネルリンパ節生検の有用性を検証する臨床試験を実施した。

センチネルリンパ節生検は、トレーサーといわれる色素やラジオアイソトープ(放射性同位体)を、内視鏡を用いて胃がん周囲の胃壁に注入することで行われる。手術中に、そのトレーサーが入り込んだ胃周囲のリンパ節をセンチネルリンパ節として同定し、今回の研究ではがん転移の有無について病理検査で検討がなされた。その結果、センチネルリンパ節が見つかる率は97.5%、リンパ節転移の正診率は99%、つまり99%の正確性でセンチネルリンパ節を用いてがん転移の有無を判定できることが明らかになったのである。

今回の研究の結果、特に早期胃がんでセンチネルリンパ節に転移のない症例については、胃切除やリンパ節郭清の縮小や省略が可能になることが期待されるという(画像)。これまで早期胃がんでも胃を大きく切除することによって、がんの根治は得られるものの手術後の体重減少や、「ダンピング症候群」(胃切除術後に起こる吐き気やおう吐、圧迫感・脱力感、めまいなどの一連の症状)などの症状が患者を苦しめてきた。今後、早期胃がん治療にセンチネルリンパ節生検を組み合わせることにより、患者の生活の質を高める効果が期待されるとしている。

また北川教授らの研究チームは今後、センチネルリンパ節に転移のない早期胃がん患者を対象に、縮小手術による患者の生活における質の向上と再発率について多施設共同研究で調査する予定とした。

センチネルリンパ節生検を応用した早期胃がんに対する縮小治療