KDDIは、9月5日よりiPhone向けアプリ「LISMO」の提供を開始した。同アプリはKDDIが提供する音楽サービス「LISMO」に対応した音楽プレーヤーで、au携帯電話やAndroidスマートフォンでLISMOから購入した楽曲をクラウド経由で引き継ぎ、再生できるのが特長。2006年から提供開始されたLISMOは、フィーチャーフォンにおけるコンテンツサービスの代名詞でもあり、今回iPhone向けアプリが提供されたことで、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行がより加速することが予想される。本稿では、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行状況と、通信各社が繰り出すさまざまな移行支援策について見ていきたい。

KDDIが提供開始したiPhone向けアプリ「LISMO」

通信各社から発表される新製品のうち、ほとんどをスマートフォンが占めるなど、国内携帯市場で主流となりつつあるスマートフォンだが、実はフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行は伸び悩んでいる。矢野経済研究所の調査結果によると、国内携帯市場における出荷台数では、すでに2011年度にスマートフォンがフィーチャーフォンを上回っているが、実際の利用者数で見ると話は違ってくる。ジャストシステムが8月に発表した「モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査(2013年7月度) 」では、フィーチャーフォンの利用率が51.5%、スマートフォンの利用率が45.5%と、フィーチャーフォン利用率が過半数となり、スマートフォンを未だ上回っている状況だ。つまり、通信各社から販売される端末の多くはスマートフォンだが、機種変更せずにフィーチャーフォンを使い続けているユーザーも多く、スマートフォンへの移行は思ったほど進んでいないのがわかる。

フィーチャーフォンとスマートフォンの利用率の推移(出典:ジャストシステム)

しかし、ここへ来て、フィーチャーフォンからのスマートフォン移行が加速しそうなトピックが幾つか持ち上がっている。ひとつは、米Appleの新しいiPhoneである「iPhone 5s」「iPhone 5c」の発売だ。主要3キャリアから販売されるiPhone 5s/iPhone 5cだが、とりわけ廉価モデルのiPhone 5cは、従来のiPhoneではなかった5色のカラーバリエーションとなるほか、各社の端末代金の実質負担額も割安となっており、フィーチャーフォンから機種変更する端末としても人気を集めると思われる。

フィーチャーフォンから機種変更する端末として人気を集めそうな「iPhone 5c」

また、スマートフォンへの移行を躊躇する原因のひとつに、フィーチャーフォンで購入したコンテンツが利用できなくなることが挙げられるが、今回、KDDIがLISMOのiPhoneアプリを提供開始したように、フィーチャーフォンのコンテンツをスマートフォンでも利用できるようにする取り組みも進められている。このようなフィーチャーフォンユーザーに配慮したサービス展開は国内キャリアではKDDIが初といってよいだろう。

なお、iPhone向けのLISMOアプリはリリース後、「App Store」の無料アプリ総合ランキングで9月8日に1位、ミュージックジャンルで9月7日から10日まで1位となるなど、人気アプリとなっており、注目度と需要の高さがうかがえる。

App Storeでのランキング推移のグラフ(ミュージックカテゴリーのみ)

さらにKDDIでは、LISMOを代表とするアラカルト配信以外にも「うたパス」「KKBOX」のような聴き放題、そのほかラジオ・ミュージックビデオなど個人のスタイルに合わせて多様な音楽サービスをiPhoneに対応させている。現在フィーチャーフォンでLISMOを使っている人は、更に充実した音楽サービスが使えるということになる。これらのコンテンツ分野での取り組みも、スマートフォン移行を後押しするきっかけになるだろう。

LISMOアプリでは、au携帯電話などのLISMOで購入した楽曲をクラウド経由で引き継げる

さらに、スマートフォンへの移行を検討しているフィーチャーフォンユーザーにとって、一番の障壁となるのは、スマートフォンを使いこなせるかどうかという不安だ。そのため、通信各社では、初めてスマートフォンを使う人などを対象にしたサポートサービスを強化し、スマートフォンへの移行を支援している。NTTドコモでは、有料のサポートサービスとして月額630円の「あんしんパック」を提供。スマートフォンが故障・紛失した際に補償するサービスのほか、遠隔サポート、セキュリティ対策をまとめたパックとなっている。遠隔サポートの電話受付は年中無休だが、受付時間は午前9時から午後8時まで。

KDDIでは、2013年6月より会員制サポートサービスの「auスマートサポート」を提供している。スマートフォンの知識豊富なアドバイザーによる年中無休・24時間体制の電話サポートが特長で、Androidスマートフォンであれば、遠隔サポートや紛失・盗難に遭った場合の遠隔ロック、位置検索サービスも利用できる。利用料金は、最初の3カ月分として3,150円、4カ月目以降は月額399円となる。さらに、追加費用を支払うことで、ユーザーの自宅にスタッフが直接訪れ、スマートフォンの設定方法や使い方を説明してくれる「スマホ訪問サポート」を受けることが可能。また、会員特典として15日間の「スマホお試しレンタル」も提供される。

ソフトバンクは、2013年8月より「ケータイなんでもサポート」を含んだ「あんしん保証パックプラス」を月額682円で提供している。ケータイなんでもサポートは、電話サポート、遠隔サポート、追加費用による出張サポートを含んだサービスで、同社のフィーチャーフォンとスマートフォンだけでなく、パソコンなどのデジタル機器も対象としているのが特長。電話サポートは年中無休で、受付時間は午前9時から午後8時まで。

各社のサポートサービスには似た内容のサービスもあるが、とりわけ24時間体制の電話サポートやスマートフォンのお試しレンタルといった他社にはない内容で差別化を図っているのがKDDIだ。また、各社はそれぞれスマートフォン教室なども開催し、スマートフォン初心者の使いこなしをサポートしている。これらのサポートサービスの充実も、スマートフォンへの移行を加速させるきっかけとなるだろう。

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Appleの「iPhone 5s」「iPhone 5c」の発売により、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行はますます加速していくことが予想される。今回、iPhoneアプリの「LISMO」で、これまで不可能だったフィーチャーフォン音楽コンテンツのiPhone移行を可能にしたKDDIをはじめとして、各社はスマートフォン移行支援策を充実させている。スマートフォンの購入を検討しているが、使いこなしに不安があるという人にとっては、各社が展開するコンテンツ・サポート両分野の移行支援策がキャリア選びの決め手になるのではないだろうか。