より進化したADM 2.0

AS-302Tを支える各機能の根底にあるのは、OSである「ADM」の存在だ。前回レビューしたAS-604Tではバージョン1.0だったが、この半年間でバージョン2.0に繰り上がっていた。2013年8月にリリースされた同バージョンは、数多くの機能が搭載されている。まずは順を追って機能を紹介しよう。

まず「サーチライト」は、NASに格納したファイルをインデックス化し、検索を行うための機能だ。ASUSTORによると業界初だという。ユーザーは特に意識して設定を変更する必要はなく、ファイルをサーバーにため込んでいけば、ADM上でキーワードやファイルタイプなどを用いた検索が可能になる。バージョン1.0でも、ファイル操作を行う「ファイルエクスプローラ」から検索できたが、直感的に素早く検索を行えるようになったのは大きなアドバンテージだ(図11~12)。

図11 「ファイルエクスプローラ」の検索機能。あくまでもファイル単位の検索を行うものである

図12 新たに搭載された「サーチライト」。デスクトップに用意されたアイコンから検索を実行し、アプリケーションやファイルを見つけ出す

バックアップ機能も強化されている。Rsync(差分符号化でデータ転送量を最小化し、遠隔のコンピュータとファイル同期を行う機能)、FTP、およびAmazon S3(Simple Storage Service)を利用したクラウドへの双方向バックアップをサポートした。この他にも、USB接続したストレージとの双方向バックアップを行う「ワンタッチバックアップ」も使いやすい。

また、各バックアップ設定では、バックアップジョブが正しく実行するために、接続回数の調整や再接続の実行間隔を設定する「ミッションモードバックアップ」機能も用意された。これにより、バックアップジョブが正常に完了することが保証されるため、ジョブ設定を柔軟に行うことが可能になる。NASのストレージデバイスはHDD/SSDであるため、何らかの理由で故障するかもしれない。それだけに、バックアップ機能の強化は、ファイルの冗長性と安全性を高める需要な新機能といえるだろう(図13)。

図13 Rsync/FTP/外部デバイス/USBマスストレージなどとの双方向バックアップ機能をサポートした

ADM上からFTPサーバーに接続する専用クライアントとして用意された「FTP Explorer」は、標準的なFTPサーバーはもちろん、FTPS(File Transfer Protocol over SSL/TLS)への接続もサポートしている。操作は2ペイン形式の標準的なものだが、デスクトップアプリと同じくドラッグ&ドロップによるファイル転送が可能なため、使い勝手は良好だ。ただし、FTP Explorerは内蔵されておらず、「App Central」から追加する(図14)。

図14 ADM上で動作するFTPクライアント「FTP Explorer」。「App Central」からインストールする必要がある

その、ADMにアプリケーションをインストールするApp Centralも、OSのバージョンアップに合わせて「App Central v2」という表記になっている。機能的な変化は確認できなかったが、製品リリース直後から比べると、専用アプリケーションはかなり充実していた。2013年8月下旬時点では、101種類のアプリケーションがインストール可能だ。個人的には、WordPressやMediaWikiといったデータを蓄積するためのアプリケーションが加わり、ますます多機能性NASとして使いやすくなった印象を受けた。なお、インストール可能なアプリケーションはASUSTORのWebページで確認できる(図15)。

図15 2013年8月下旬で101種類のアプリケーションの管理が可能な「App Central v2」

「AS-302T」は個人向けNASの位置付けだが、上位モデルでも同じADMを利用していることもあってか、VPNクライアントを新たに搭載した。PPTPやOpenVPNプロトコル経由でVPNサーバーに接続すれば、NAS経由で仮想プライベートネットワークへのアクセスが可能になる。複数のVPN接続プロファイルが作成できるため、自宅から会社へのアクセスなどに威力を発揮しそうだ。ぜひ次期ADMでは、VPNサーバーの搭載を期待したい(図16)。

図16 新たに加わったVPNクライアント機能。PPTPもしくはOpenVPNプロトコルを利用した接続が可能だ

ADM上で動作するアプリの1つとして、サウンドプレーヤー「SoundsGood」が用意されているが、執筆時点ではベータ版の扱いだった。保存した音楽ファイルをADM上(Webブラウザ)だけでなく、HDMIやUSB、オーディオジャック経由で再生できる。ID3タグエディタも内蔵し、MP3形式ファイルの管理が容易になるとのこと。残念ながら複数のMP3形式ファイルに対する編集は応答性が悪く、編集画面が現れるまでかなりの時間を要した。「ベータ」の文字が取れる頃には、正しく動作するだろう(図17~18)。

図17 ADM上で動作する音楽プレーヤー「SoundsGood」。HDMIなどの出力だけでなく、Webブラウザによる再生も可能だった

図18 MP3形式ファイルに対するID3タグ編集機能も用意。複数ファイルに対する編集操作も一応サポートされている

マルチメディア機能に関しては、NASからPlayStation 3やXbox 360などのUPnP/DLNA互換メディアプレーヤーにストリーミングできる「UPnP Media Server V2」や、iOSリモートペアリングとAirPlayをサポートする「iTunes Server」、保存したメディアファイルをHDMI経由で再生可能にする「Boxee」に加え、定評のある「XBMC」もベータ版ながら使用可能になっていた。XBMCは、オープンソースで開発されているメディアプレーヤーアプリケーションだ。

これは推測だが、ASUSTORとしてはBoxeeからXBMCへの移行を考えているように思われる。XBMC公式サイトで確認できるリリースバージョンと同じく、ADMアプリ版XBMCのバージョンは0.12.2.r0021だったことを踏まえると、最新版が利用可能なようだ(図19)。

図19 AS-302Tにインストールした「XBMC」。バージョンは0.12.2.r0021だった

今回はADM 2.0の評価が中心となってしまったが、AS-302Tを一週間ほど試用した限り、ハードウェア的な不満は一切感じなかった。コンパクトなきょう体は設置場所に困ることはなく、OSのバージョンアップによる機能強化や、アプリケーションもこの半年間で十分増えている。価格の面でも、同種の多機能型NASと比較しても引けを取らない「AS-302T」は、初めてNASを導入するユーザーにも魅力的な選択肢となるだろう。

阿久津良和(Cactus)