MSDN/TechNetによる配布は遅くなる?

その一方で気になるのが、MSDN/TechNetによる先行配布である。そもそもMicrosoftはソフトウェア開発者向け、TechNetはITプロフェッショナル向けに技術情報やソフトウェアを提供する有料サービスだが、RTM版に達したソフトウェアを早期公開することでも有名だ(TechNetは今年8月31日でサブスクリプションの申し込みが終了する予定)。例えばWindows 8の一般提供は2012年10月26日だったが、同サービスでは同年8月16日(日本は15日)にリリース開始されている。

そもそもMicrosoftは今年7月に開催された「Worldwide Partner Conference」の壇上に立った、Windows担当チーフマーケティングオフィサー兼チーフファイナンシャルオフィサーであるTami Reller(タミ・レラー)氏は、Windows 8.1のOEM提供が8月後半になると述べた。Windows 8.1の一般提供が2013年10月18日であれば、前回と似たタイミングで提供されるはずだが、この点に関していくつかの情報が錯綜(さくそう)している(図05)。

図05 WPC 2013のキーノートでOEM提供タイミングを語るTami Reller氏

「ZDNet」に寄稿するMary Jo Foley(メアリー・ジョー・フォーリー)氏の記事によれば、Microsoftはいくつかのバグを根絶するために、MSDN/TechNetによる配布は最終段階までとどめる計画だという。これはリリース後にいくつもの更新プログラムを提供するよりもましだ、とFoley氏は記事で語っている。いずれにせよWindows 8.1はリリーススケジュールに載せるまでの完成度に迫っているが、執筆時点では完成に至っていないと見るべきだろう。

さて、Windows 8.1の登場でWindows 8で発生していた劣勢を覆すことができるのだろうか。確かにWindows 8.1は使いやすく、Windows 8で発生していた不満の多くが解消されている。個別の新機能に関しては今後も語る機会があるはずなので割愛するが、このままではWindows 8のリリース時と同じことを繰り返すのではないだろうか、と筆者は愚見したい。

もちろんWindows 8およびWindows 8.1が、以前のWindows OSと比較して進化していることに異論を挟む方は多くないだろう。それどころか、Windows Vistaをベースに丁寧な改良が加わった、と述べても過言ではない。だが、Windows 8/8.1最大の問題は、デスクトップ/ノート型コンピューターとの相性の悪さである。

タブレット型コンピューターでWindows 8/8.1プレビューを動かすと、想像以上に快適な環境であることに驚いた方は少なくないだろう。だが、その一方でキーボードレスのデバイスでデスクトップアプリを操作するにはかなり難しい。その一方、デスクトップ型コンピューターによるモダンUI(ユーザーインターフェース)の利用はディスプレイの一面を占有してしまうため、ディスプレイの表示領域を最大限に活用するウィンドウシステムに慣れ親しんだユーザーに評判が悪いのは当たり前である。

つまり、Windows 8およびWindows 8.1が高い評価を得られない理由の一つが、キーボードやマウスといったHID(ヒューマンインターフェースデバイス)の利用方法と、タブレット型コンピューターのタッチインターフェースの存在が相入れないところにあるのではないだろうか。長年Windows XPを使ってきた多くのユーザー層がWindows 8ではなく、Windows 7を移行先として選択しているのは、これが理由だと筆者は愚案する。

もちろんキーボード&マウスという旧来型のHIDが今後も支持される保証はなく、コンピューターを取り巻く環境がタッチインターフェースに移行しつつ、もしくは過渡期に差し掛かっているのはMicrosoftも承知のとおり。さらに将来的にはNUI(ナチュラルユーザーインターフェース)という新たなUIも研究中である。そのため、Windows 8/8.1が、新たなインターフェースへの対応を模索し、モダンUIにたどり着いたこと自体は間違いではない(図06)。

図06 日本マイクロソフトが今年1月に開催した、UIに関する発表会のワンシーン。今後UIはNUIへ移行すると同社は捉えている

ただ、現存する多くのキーボード&マウスを多用するユーザー層へのアピールが欠けているのである。Microsoftは新たな技術を生み出すというよりも、荒削りな新技術を自社のものとし、長年かけてブラッシュアップするのが得意な企業と、筆者の目には映ってきた。箸にも棒にもかからないWindows 1.0から一定評価を得るまでになったWindows 3.xや、当初はMemory Eaterと邪揄されたWindows NTも、Windows 2000やWindows XPを生み出す土台となったのは、読者もご承知のとおりである。

モダンUIという新たなステージにチャレンジしたWindows 8、そしてその改良版となるWindows 8.1は、きっと旧来のユーザー層からは高い評価を得ることはないだろう。しかし、今後登場すると噂されている7インチクラスのMicrosoft Surface(サーフェス)や各種デバイスの登場や、キラーコンテンツとなるWindowsストアアプリが登場すれば、Windows 8.1に対する評価は簡単に覆せるはずだ。

阿久津良和(Cactus