1日の通信ログは3,600万件、月間では10億件になる。一般的にキャリアは、こうした通信状況の情報を基地局などから得ており、もっと膨大な数になるのだが、この通信ログのメリットは、「ピンポイントで見つけてくれる」という点にあると宮川氏は説明する。基地局からの情報では、1つの基地局のエリア内で通信状況の良し悪しは分かるが、そのエリア内でピンポイントに悪い場所は分からない。このデータであれば、例えば「渋谷駅東口のある1点」で通信状況の悪い場所がピンポイントで分かるため、これを改善に役立てているという。

具体的には、日本全国を100m単位のマス目で区切って、その範囲内で通信に失敗したデータを地図上にプロットしていく。この失敗が一定数に達すると情報が上がり、それに対して同社の「特殊班」が現地に行って、そのポイントを調査し、レポートする、というフローになっているそうだ。

千葉県千葉市のデータ。赤い点が通信に失敗した場所を示している

相模原市近辺のデータ

上野駅近辺

茅ヶ崎市の住宅街のデータ

このレポートで、改善工事を行った場合に接続率が0.1%上がるのか、それとも変わらないのか、ということも分かるため、工事に踏み切りやすくなり、例えば改善工事で費用が1,000万円、工期が3カ月かかる、という場合でも、データがあるため「超特急でやったらいくらかかるか、ということも言える」というメリットがあるという。その結果、2週間でできるが3,000万円かかる、という試算が出ても、必ず0.1%改善することが分かっていれば、その試算にゴーサインを出すという意志決定ができるようになったのだという。

もともと、このデータは、3社の比較ではなく、ソフトバンクの弱点を導き出して、悪いスポットを直すためのものだという。実際にデータの取得を開始してみると、例えば上野駅にあるアトレ上野内の通信状況が悪かったため、特殊班を出して改善を進めるなど、流動人口の多いエリアでの接続率改善が進展。東京・渋谷のヒカリエオープンや東武東上線・東急東横線・みなとみらい線の直通運転開始、といった人の流れの変化など、さまざまな状況が見えてきた、ということだ。関東や全国という広い範囲で見れば、あるエリアの接続率の低下は0.1%程度も押し下げないが、例えば茅ヶ崎市内だけで見れば1%の低下に繋がっている場合もあり、そうした場合にすぐさま対策を打てるようになったことで、接続率が向上したという。

説明会などでソフトバンクは、接続率というグラフを提示しているが、データ自体は地図上にプロットして解析し、通信状況の改善に役立てているそうだ。そして、ダブルLTEの導入前後で、接続率が改善したこともこれでよく分かったという。その過程で、他社のデータも取得でき、恒常的に通信状況の悪い場所もピンポイントで分かり、接続率として算出することで、宮川氏の「他社に負けていない」という根拠にもなっている。

ダブルLTE導入前後の池袋駅周辺のデータ。赤い点が減っている

次の一手も計画

「こんなに3キャリアとも無線に金をかけている国はなく、世界でいったら(ネットワークが)ピカピカの国」と宮川氏。そうした各社とも高度なネットワークを構築している中で、「たった1%勝ったり負けたりの議論を、場所によってバラバラに言っているだけ」と、他社を牽制しつつ、自社の主張もそれほど大きな意味を持っていないと正直な感想を述べる。ただ、そうした話が出てくること自体に対して、「これまで(ドコモとKDDIという)2強+1(ソフトバンク)だったのが、3強に近いところまで来ている」と宮川氏。そして、「本当の勝負はネットワークの体力」と強調する。

パケット通信が主流になり、バックボーンのネットワークからサーバーまで、どこかが障害を起こすと、ネットワーク全体の障害として影響が出るため、「その体力を高めなければならない」とのことで、これに対しては、「いくつか手を打ってきて、ここは(他社に)遜色なく勝てるところだと思っている」と宮川氏は話す。