東京大学工学系研究科の古澤明教授と武田俊太郎大学院生らは、世界で初めて完全な光量子ビットの量子テレポーテーションの実証に成功したと発表した。これにより、大容量の量子通信や高速な量子コンピュータの実用化が見込まれるという。今回の研究の詳細は、15日発行の英国科学雑誌「Nature」に掲載される。

量子テレポート実験のイメージ(プレスリリースより)

光子とは、波としての性質と粒子としての性質を併せ持つ、光の粒子。量子力学の原理を応用した量子コンピュータの実現には、光子に乗せた量子ビットの信号を遠隔地へ転送する、光量子ビットの量子テレポーテーション技術を確立することが最重要課題の一つとされてきた。

従来、光量子ビットの量子テレポーテーションの手法には2つの問題があり、実用化が困難だった。1つは、転送成功の判定として、転送後の量子ビットを測定し、都合の良い事象だけを選び出す「条件付き」で転送成功が保証される点。もう1つは、例えば100個の量子ビットを送信しても正しく受信されるのは1個未満と見積もられるなど、転送効率が原理的に低く制限されている点だという。

今回の実験で成功した新方式では、効率の良い「光子の波としての性質」の転送技術を、光量子ビットに適応させる手法を採用。これにより、無条件で量子ビットの転送が可能となった。また、転送効率は従来の100倍以上となる61%と見積もられ、原理上は100%近くまでの向上が期待できるという。

この新手法により、量子テレポーテーションを応用した量子情報処理の飛躍的な転送効率の向上が見込まれ、「量子情報処理システムの実用化が進展する突破口を与える」という。今後は、量子ビットの転送効率を高めると同時に、この手法を拡張した、より高度な量子情報処理システムの開発へつなげるとする。