東京大学は、小型衛星用の小型イオン推進システム「MIPS(Miniature Ion Propulsion System)」のエンジニアリングモデルの開発に成功し、フライトモデル開発のめどが立ったことを発表した。

同成果は、同大先端科学技術研究センターの小泉宏之准教授、東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一 教授、次世代宇宙システム技術研究組合らによるもの。今回の研究は、中須賀教授が中心となって進めている最先端研究開発支援プログラム 「日本発の『ほどよし信頼性工学』を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築(ほどよしプロジェクト)」の一環として行われたもの。

小惑星探査機「はやぶさ」における活躍により注目を集めたイオンスラスタ(イオンエンジン)は、 その高い比推力、豊富な作動実績、精密な推力制御能力といった利点のため、現在、人工衛星への搭載が進められているほか、低コスト・短期開発が可能で、近年研究開発が活発化している小型衛星用のスラスタとしても適していると考えられてきた。

しかし、小型衛星に適合する電力消費量のイオンスラスタならびに推進システムとしてのサブコンポーネント開発が進んでおらず、100kgを下回る小型衛星にイオンスラスタを搭載し、実用したという例はなかった。

そこで研究グループは今回、イオンスラスタを利用した新しい小型の推進システムの開発に挑んだ。同推進システムには、小泉准教授らが研究を進めている 「低電力小型イオンスラスタ」を用いることで、システムの低電力化と軽量化が図られているほか、駆動のための電源、ガス供給システム、制御器などのサブコンポーネントを、小型衛星向けに最適化したサイズおよび消費電力で新たに開発することで、小型低電力のイオン推進システムの実現した。

MIPS(小型イオン推進システム)の構成

また、全システムをモジュール化することで汎用性を高め、多くの小型衛星への適用が可能な設計を採用したという。

MIPS-EM(小型イオン推進システムのエンジニアリングモデル)の外観。中央下の突起部分がイオンスラスタユニット(ITU)

ITUのエンジニアリングモデルの拡大画像。上側円筒形部分が中和器であり6個の穴から電子を放出する。下側円筒形部分がイオン源であり211個の孔からイオンビームを排出する

同小型イオン推進システム(MIPS)は、2014年に打ち上げ予定となっている日本の超小型衛星「ほどよし4号」に搭載される予定で、この打ち上げおよび作動実証に成功すると、 100kg以下の小型衛星における世界初の小型イオンスラスタの運用が達成されることとなる。

今回、エンジニアリングモデルとして開発されたMIPSでは、全質量7.9kg(推進剤1.0kg込み)および全消費電力39Wを達成し、 50kg級小型衛星に使用可能な推進システムの構築に成功したという。すでに研究グループはこの成功を受けて、衛星に搭載するためのフライトモデル(FM)の設計および開発を進めており、フライトモデルではさらなる軽量化および低電力化が見込まれているとする。 なお、研究グループでは、小型衛星は低コスト・短期間での開発が可能なため、小型イオン推進システムを搭載した小型衛星の運用が進むことで、これまで膨大なコストがかかっていた中・大型衛星の開発・運用にとってかわり、通信・放送・測位・地球観測・宇宙科学などの従来分野に加え、教育や農林水産業、輸送業やエンターテイメントといったさまざまな分野において衛星を活用することが可能になることが期待されると説明している。