産業技術総合研究所(産総研)は6月10日、新たなチャネルと電極構造を用いた合成電界トンネルFETの動作を実証し、従来のトンネルFETに比べ10~100倍の動作電流が得られることを確認したと発表した。

同成果は、同研究所 ナノエレクトロニクス研究部門 シリコンナノデバイスグループの森田行則 主任研究員 兼連携研究体グリーン・ナノエレクトロニクスセンター 連携研究体付らによるもの。詳細は、2013年6月11~13日に京都市で開催される国際会議「2013 Symposium on VLSI Technology」にて発表される予定。

電子のトンネル効果を利用したトランジスタ「トンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)」は、現在の主流であるMOSFETの限界を超えた低電圧でオン・オフの切り替えができるため、実用化に向けた研究が各所にて進められている。

トンネルFETはゲート電極にゲート電圧をかけると、その電界の影響でソースとチャネルを隔てる障壁が薄くなり、トンネル効果により電子が障壁を通り抜けて、トランジスタに電流が流れるという原理であり、急峻なスイッチングにより、MOSFETに比べて低電圧で電流のオン・オフを切り替えることが可能だが、MOSFETよりも流れる電流が小さいという課題がある。

トンネル接合部により強い電界をかけることで、大きい電流を得ることが可能となるが、そのためには大きなゲート電圧が必要であり、低消費電力化を実現するための低電圧動作とは相反してしまうことから、今回研究グループは、同じゲート電圧で、より強い電界を得ることが可能な新たなチャネルと電極構造を採用することで、こうした課題の解決を図った。

今回開発された新構造トンネルFETは、高濃度に不純物を注入したソース上に、極めて薄いノンドープチャネルをエピタキシャル成長させた後、加工して、2層構造のチャネル周囲にゲート電極を配置して立体構造のトランジスタとしたものとなっている。

今回開発された新構造トンネルFET断面の透過電子顕微鏡像

トンネルFETの動作原理と動作電圧低減

従来のトンネルFETは、ゲート電極からの電界に対し垂直または平行な電界のみの効果によって電流をオン・オフする設計であったが、今回開発された構造では、立体加工したチャネル側壁面の高濃度ソースとノンドープチャネル層の界面で、縦方向と横方向の電界を重ねることで、従来よりも強い電界をかけることを可能としたとのことで、研究グループでは、この新構造のトンネルFETを「合成電界トンネルFET(Synthetic electric field tunnel FET:SE-TFET)」と命名している。

従来構造(左)と今回作製された新構造トンネルFET(中央および右)の模式図

実際に、従来のトンネルFETと今回開発した合成電界トンネルFETにおける、ゲート電圧と得られるドレイン電流との関係を調べたところ、新トンネルFETでは従来トンネルFETに比べて10~100倍のドレイン電流を得ることができることが確認された。

従来構造と新構造トンネルFETのドレイン電流の比較

研究グループでは、エピ層の厚さやチャネルの幅を縮小することで、トンネル接合部にさらに強い電界をかけることができるようになるため、デバイスの微細化による性能向上が可能であるとするほか、今回の研究ではSiを用いたが、より高い性能を発揮できるGeやInGaAsなどの化合物半導体を用いたトンネルFETでも、同構造は効果を発揮できるため、将来の微細化や材料の進化により、さらなる性能向上が期待できるとしている。

そのため研究グループでは今後、引き続きプロセスの最適化を進め、低電圧でのCMOS動作を目指すとするほか、微細化により、既存のトンネルFETを超える性能と一層の動作電圧低減を目指すとしている。また、実験とシミュレーション、回路動作モデルとを組み合わせによるCMOS回路に適用した場合の電源電圧低減効果などについても解明を行っていきたいとコメントしている。