東京大学は5月10日、東京工業大学(東工大)、フィンランド国立技術研究所(VTT)との国際共同研究により、「結晶性セルロース」を効率よく分解できる「セルラーゼ」には、セルロースのほころびを認識してつかむ機能が備わっていることを明らかにしたと発表した。

成果は、東大 大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の中村彰彦氏(日本学術振興会特別研究員)、同・塚田剛士氏(同)、同・和田昌久准教授、同・五十嵐圭日子准教授、同・鮫島正浩教授、東工大大学院 生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻の古田忠臣助教、VTT 技術研究センターのSanna Auer研究員、同・Anu Koivula主任研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間5月10日付けで「The Journal of Biological Chemistry 」に掲載された。

セルロースは植物細胞壁の主要成分であり、地球上に最も多く存在する生物由来資源だ。そのため、セルロースをアルコールや有機酸に変換し、そこからさらにさまざまな物質を製造する研究が世界的に行われている。しかしセルロースは強固に分子鎖が集まった結晶構造を有しており、植物細胞壁の強度の源であるため、酵素による分解効率が低く、利用が困難なことが問題となっている。

ただし、自然界にはそうした強固なセルロースの分解を得意とする生物もいる。それがカビの1種である「Trichodarma reesei」だ。このカビが生産する主要なセルロース分解酵素「TrCel7A」は結晶性セルロースを効率よく分解できることがわかっている。

近年、東大とVTTとの共同研究により、同酵素の40番目のトリプトファン残基「W40」(画像1)を「アラニン」に変異させると、セルロース分解能が著しく低下することが発見された(画像2)。しかしこのトリプトファン残基が実際にどのような役割をしているのかはこれまで明らかになっていなかったのである。

画像1。W40残基はセルロースと最初に触れる酵素の端に位置している

画像2。W40残基がないと、結晶性セルロース分解能が著しく低下する

そこで研究チームは、セルロース分解活性と吸着能力の比較および「分子動力学シミュレーション」を用いた解析を実施。それによって、このトリプトファン残基がセルロースの末端をしっかりと認識することで、結晶性セルロースの分解が始まることが明らかとなった(画像3)。

画像3。分子動力学シミュレーションにより、W40残基がセルロース末端を正しい位置に保持することで、分解反応を始めることができることが判明した

分子動力学シミュレーションとは、スーパーコンピュータなどを用いて分子の動きを計算し、物質の性質や動きを解析する手法のことだ。3次元構造が明らかとなっているタンパク質において、基質と酵素のインタラクションの解析や、各アミノ酸の機能予測などに応用されている。

研究チームは今回の成果により、セルロース分解酵素がどのように結晶性セルロースを分解していくのか分子レベルで理解が進んだという。今後、より効率よく結晶性セルロースを分解できる酵素の作製に役立つことが考えられると、コメントしている。