自分のサービスを使われているのが嬉しい

モデレータを務めたWeb Designing編集長の馬場静樹氏

それぞれのプレゼンが終了し、イベントはいよいよディスカッションへと差し掛かった。

最初のテーマは、WEBサービスを作ってそれをビジネスにしようと思ったきっかけは何か、というもの。閑歳氏は、自分で物を作れるエンジニアという存在への憧れが一番の動機であったと説明した。さらに、在学中に開発していた学内SNSにおける経験を紹介し、自身の開発したサービスを知らない人が使っているととても嬉しく、その喜びをまた味わいたいということも推進力になっていると話した。

一方、和田氏は個人で作るWEBサービスが本業にもたらすメリットに触れた。「WEBで勉強しながらサービスを出していくと、実績が認められて自然と仕事の誘いを受けるようになる。ブログを書くことに近い」と話す。それでも、boketeによって救われたという女性のエピソードなどを聞いていると、やはり和田氏もユーザからのフィードバックがサービス開発の大きな原動力となっているのは間違いなさそうだ。

ほぼ全てを一人で開発した

boketeもZaimも非常に多くの人に利用されるサービスだが、これらのサービスは、どのような開発体制で作られているのだろうか。

共通しているのが、どちらのサービスもほぼ全てを一人で開発したということだ。

「メンバーは他にも居るが、バックエンド開発とインフラの運用に関しては一人だけでやっている」(和田氏)

「ロゴは外部の人に考えてもらったが、それ以外は全て一人で作った」(閑歳氏)

関わるメンバーはどちらのサービスも小人数であり、メールやチャットなどを使ってプロジェクトを進めている。ただし、リモートで作業をするにはレスポンスの速さが非常に重要であり、10人を超えるとうまくいかないかもしれないとのこと。現在は和田氏も閑歳氏も5人程度のメンバーがコミュニケーションをとって開発を進められるように調整しており、その規模であればリモートでも全く問題がないと話していた。

作りたくて作っている

WEBサービスは開発すればそれで終わりというものではなく、必ず運用がつきまとう。ユーザからの要望にも耳を傾ける必要があるが、閑歳氏は「要望に耳を傾けるのとそれを実装するかどうかは別の話。フォーカスがぶれないようにしなければならない」(閑歳氏)と述べた。

boketeでは、新しいユーザに積極的に活動してもらうことが大事だと考えており、「極端に言えば、古参ユーザには目を向けず、新参ユーザのことを考えて機能を実装していく」(和田氏)という。

また、クオリティよりも開発スピードが優先されてしまうというジレンマにも触れられていた。とはいえ、「セキュリティ面には細心の注意を払っている」(閑歳氏)とし、注力する部分と素早く仕上げる部分とでメリハリをつけていることが伺い知れた。boketeにおいても投稿される画像の品質は手作業で丁寧にチェックをしているそうだ。

閑歳氏も和田氏もサービスの開発を心から楽しんでおり、1時間半という限られた時間のディスカッションでもそれが存分に伝わってきた。「作りたくて作っている。好きなものがあることは幸せ」(閑歳氏)、「新しい技術に触れながらいい物を作り、また皆さんの前でフィードバックしたい」(和田氏)、と今後の展望についても非常に意欲的だ。

まだまだ進化を続けるZaimとbokete。それを支えているのは、開発者である閑歳氏と和田氏の思いであることは間違いない。

著者プロフィール

本間雅洋

北海道苫小牧市出身のプログラマー。好みの言語はPerlやPython、Haskellなど。在学中は数学を専攻しており、今でも余暇には数学を嗜む。現在はFreakOutに在籍し、自社システムの開発に注力している。

共訳書に「実用Git」(オライリー・ジャパン)、共著書に「FFmpegで作る動画共有サイト」(毎日コミュニケーションズ)がある。