富士通とSpansionは4月30日、富士通の子会社で半導体事業を行っている富士通セミコンダクター(FSL)のマイコン・アナログ事業をSpansionに売却することに関する最終契約を締結したことを発表し、併せて、富士通の山本正己 代表取締役社長が決算説明の場において、同売却に関する説明を行った。

同氏は半導体事業に対して課題事業という認識を示しており、事業の再編を積極的に進めようとしている。すでに2012年10月に岩手工場をデンソーに、同12月に後工程製造拠点をジェイデバイスにそれぞれ譲渡しているほか、SoC(システムLSI)ビジネスについてパナソニックとの設計・開発機能の統合を視野に入れた話し合いを進めていることに加え、三重の300mmウェハ対応工場についてはファウンドリ大手のTSMCと合弁企業を立ち上げ、そちらに移管する方向で話し合いを進めている。

今回のマイコン・アナログ事業は、FSLのSoCと並ぶ2つの柱のもう一方の柱であり、今回のSpansionへの売却により、「ビジネスの永続的な成長を果たすため」(同氏)の体制が整ったこととなる。

決算会見にて、半導体事業に関する説明を行う富士通の山本正己 代表取締役社長

今回の売却は、具体的にはFSLならびに、その子会社である富士通VSIならびに富士通マイクロソリューションズが営む国内のマイコン・アナログ事業を富士通が吸収分割し、同事業をFSLが設立する新会社へ吸収分割することで継承させ、その上で、Spansionの日本法人である日本スパンションに対して、新会社のすべての株式を譲渡するという形をとる。また、併せてFSLの海外のマイコン・アナログ事業、およびマイコン・アナログ事業関連の知的財産と製品在庫も譲渡されることとなる。

しかし、FSLのマイコン・アナログ事業のすべて(設計、製造)がSpansionに譲渡されるのかというと、実はそうではない。製造を行う会津工場は、FSLが手元に置き、Spansionの委託を受けてマイコン・アナログ製品の製造を行うほか、日本国内のマイコン・アナログ製品の販売については富士通エレクトロニクスが販売代理店として担当することとなる契約となっており、実際にはマイコン・アナログ製品の設計部門が売却されるという形となっている。

「半導体事業の再編については、半分は来たかな、という感じ。富士通としても、将来にわたって半導体はエレクトロニクス業界のキーコンポーネントだと考えており、何等かの形で残したいと思っている」と山本氏は述べており、今すぐ富士通が完全に半導体事業から撤退するということはないとのことで、パナソニックとのSoCの設計部門統合についても、「統合となれば、両社のほか、外部からの資本も入れる形となるが、何らかの形で関与をしていくこととなる」と含みを持たせた。

こうした再編のスケジュールとしては、Spansionへの売却が2013年の7~9月に終了する予定のほか、残りの案件も明確な時期は言えないものの、2013年度の上半期中には、何とかしたいという想いを示す。

「半導体ビジネスで重要なのは、確実な利益モデルを作れるのかどうか。今、富士通の社内で、その議論を徹底的にしていると思ってもらいたい。端的に言えば、2012年度の為替水準でも利益を出すためにはどういったことが必要なのか、ということを話し合っている」とのことで、少なくとも富士通としては、今回の売却に伴い、自社の半導体事業の健全化が図られたという判断を示している。特に景気回復の期待から、スマートフォン向けや自動車向けが成長見込みとしており、LSI事業の売上高は2012年度(2012年4月~2013年3月)は2896億円であったものが、2013年度(2013年4月~2014年3月)では前年度比10.5%増の3200億円へと事業の売却がありながらも増加するとの見方を示しているほか、営業損益も2012年度は138億円の赤字であったが、2013年度では、上期5億円、下期75億円と、それぞれ黒字となり、通期も80億円の黒字へと転換することを見込んでいるとする。

なお山本氏は最後に、「半導体ビジネスそのものから富士通グループは距離をおくという考えだが、半導体はかつて産業の米と言われたように、決してなくならないし、ますますその存在は重要になってくる。ICT業界だけでなく、幅広い分野で必要とされることから、富士通としてもさまざまな形で関与を続けていく」と改めて、富士通の根幹を成すような分野に対する半導体などについては、今後も深く関与し続けて行く方針であることを強調した。