多方面に勢力を伸ばしているMicrosoftは、先頃同社初のコンピューターとなるSurface RTを日本国内でもリリースし、ソフトウェアだけでなくハードウェアに対しても積極的であることを内外に広めた。そしてコンピューターを取り巻くもう一つの分野「オンラインサービス」も努力しているが、後じんを拝しているのが現状である。

それでも多くのサービスを無償提供し、シェア(市場占有率)の拡大に努めているが、ビジネスやプライベートコミュニケーションの根幹である電子メールサービス「Outlook.com」の拡充を新たに発表。これまで「Windows Liveカレンダー」として提供されてきたカレンダーサービスの内容を刷新し、Outlook.comの1コンテンツとして動作するようになった。今週はWebアプリケーション化しつつあるカレンダー機能についてレポートをお送りする。

大きな成長を示し、シェア拡大を目指す「Outlook.com」

スケジュール管理は社会で働くサラリーマンや自営業、学生など万人が必要とする道具である。データを詳細に管理することに長けたコンピューターが、その役割を担うのは自然の流れ。インターネットが普及する以前からコンピューター上では、各種個人情報を管理するPIM(Personal Information Manager)アプリケーションに注目が集まってきた。その後、インターネットや携帯電話の普及によるインフラの拡大で、PIMの役割はスマートフォンやWebアプリケーションが担うようになったは読者がご存じのとおりである。

Googleは2006年4月にWeb上でスケジュール管理を行うアプリケーション「Google Calendar」をリリースし、多くのユーザーはそれまでローカルデバイスに縛られてきた各種個人情報をクラウド上に移行。Microsoft OutlookやiCalのようなデスクトップアプリを旧態依然の存在として隅に追いやってしまった(もっとも、クラウドという仕組みに信頼を置かず、あくまでもローカルデバイスに情報を集約される方も少なくない)。

Google Calendarが大きく普及した理由の一つが、シンプルかつデスクトップアプリに似たUI(ユーザーインターフェース)を採用した点である。例えばスケジュールタスクの移動もドラッグ&ドロップで実現可能。黎明(れいめい)期のWebアプリケーションは苦手だったUIの改良だが、現在では多くのWebアプリケーションが、右クリック時に現れるメニューを独自のものに置き換えるなど、デスクトップアプリとWebアプリケーションの境目は日々減りつつある(図01)。

図01 筆者のGoogle Calendar。見られると恥ずかしい項目にはモザイクをかけたが、日々の仕事や予定だけでなく、備忘録なども登録している

さらにWebアプリケーションの利点である使用デバイスの制限をなくしたのも普及要因の一つに数えるべきだろう。Webブラウザーを備えるデバイスであれば、参照場所は制限されない。一時期はフィーチャーフォン(携帯電話)専用のページも用意されていたため、日々のスケジュール管理に利用してきた方も少なくないはずだ。

一見すると不変的なサービスとして愛用されるように見えたGoogle Calendarだが、ここ数年におけるGoogleの動向を見る限り、残念ながら必ずしも万全の信頼を置けるとはいいがたくなってきた。Googleは次々と不人気、もしくは不利益なサービスを終了している。個人的にはGoogle NotebookやGoogle Readerの廃止(予定)は同社に対して不信感を募らせるには十分の出来事だった。「The Google Graveyard(Googleの墓場)」では、同社が廃止した各種サービスをお墓として並べているので、過去にサービスを利用した方は一度献花してほしい(図02)。

図02 「The Google Graveyard」では、Googleが廃止した各種サービスがお墓として並んでいる

さて、もちろん現時点でGoogle Calendarが廃止されるという噂も聞かず、閉鎖に至る動向も見受けられない。だが、同社は営利企業であり、ユーザーの利便性よりも自社の利益を優先するのは至極当たり前である。そのため、来年Google Calendarが廃止すると同社が発表しても不思議な話ではない。

このような不信感が漂う状況で追い上げを狙うのがMicrosoftである。Windows 8にはWindowsストアアプリとして「カレンダー」を用意し、アカウントベースで各種カレンダーサービスと連動していた。しかし、Googleは2013年1月30日をもって各種データを複数のデバイスで共有するEAS(Exchange ActiveSync)接続のサポートを終了。そのため、「カレンダー」でGoogle Calendarのタスクを参照することは不可能になってしまった(図03~04)。

図03 Windowsストアアプリの「カレンダー」でアカウントを確認すると、「Gmail」には「ご注意ください」という赤字のメッセージが加わっている

図04 プロパティを確認すると、GoogleがEACをサポートしなくなった旨を通知するメッセージが現れる

Microsoft側は対処方法を紹介しているが、実際に適用できるのは「電子メール」「People(連絡先)」のみ。「カレンダー」とGoogle Calendarとの連動は不可能である。Microsoftの説明を引用すると、「電子メールと連絡先を同期するには、既存のGoogleアカウントを削除して、そのアカウントに再接続する必要があります。重要な点として、Googleアカウントが複数ある場合は、一つのアカウントの連絡先しか取得できません。そして、今後Googleカレンダーをカレンダーアプリと同期することはできなくなります」と述べている。

もっとも、この仕様変更で被害を受けるのはMicrosoft陣営だけでなく、iOS向けアプリを開発している開発者も一緒。以前からiPhoneでGmailやGoogle Calendarと自動同期しているユーザーは維持されるそうだが、新たにEAC経由でアカウントを作成することは不可能になっている。ただし、iOSはGmailアカウントをサポートしているため、大きな問題ではない。結局のところGoogleは、自社陣営であるAndroid系デバイスを優先する「囲い込み」を行っているのだ。筆者自身はこの選択を否定する気はないが、1ユーザーの立場に戻れば不便なことこの上ないのである(図05)。

図05 iPhoneでは自社サービスであるiCloud以外にも、数多くのアカウントをサポートしている

話をMicrosoftに戻そう。同社はGoogleが存在しない時代からPIMであるMicrosoft Outlookをリリースしてきた。電子メールクライアントとPIMを備えた同アプリケーションの利便性を知るユーザーは、長年使ってきた方も少なくないだろう。IT系メディア業界でも「なぜSurface RTにOutlookがないのか?」と、同デバイスの発表会で筆者に質問してきた関係者もいるぐらいだ。筆者も数年間はOutlook愛用者だったが、データフィルの度重なる破損で使わなくなってしまった(当時は原稿データを電子メールに添付していたため、データファイルの肥大化が顕著だったのである)。

そのため、ここ数年のデスクトップアプリのOutlookに関しては軽く触れる程度だが、個人的に注目しているのが、WebアプリケーションであるOutlook.comだ。GoogleをはじめとするWebアプリケーションの台頭に対抗するため、MicrosoftはOffice Web AppsなどWebアプリケーションへ注力しているのはご存じのとおり。Microsoft Office 365など、新たなビジネスモデルの提供にも積極的だが、明らかにGmailの対抗馬としてリリースしたOutlook.comは電子メールクライアントだが、同アカウント(正しくはMicrosoftアカウント)を用いて「カレンダー」との連動を実現している。

Microsoftの公式ブログである「Windows Experience Blog」では、How to see your Google Calendar events in Windows 8という記事を掲載している。同社のコミュニケーションマネージャーであるBrandon LeBlanc(ブランドン・ルブラン)氏は、「現在はGoogle Calendarイベントの完全同期機能をサポートしていないが、『カレンダー』でイベントを取得する方法はある」と述べ、その手法を紹介。執筆時点では英語のままだったが、URLやコンテンツの内容を踏まえると今後日本語化されるだろう(図06)。

図06 Microsoftが紹介する、GoogleカレンダーからOutlook.comへの移行方法

具体的にはGoogle Calendarのエクスポート機能を使用して、イベントをICS形式ファイルで出力。そしてOutlook.comのインポート機能で同ファイルを読み込むというものだ。つまり、Google Calendarの使用をやめてOutlook.comを使わなければならないのである。そうなると困るのがiOSやAndroid搭載デバイスでの運用だが、iOSは既にMicrosoft Hotmailをサポートしているため問題はない。Androidも「コーポレート」を選択すればExchangeアカウントとして登録できるようだ。

Google Calendarからの移行先としてOutlook.comが期待に添えるかという疑問に関しては、「Outlook Blog」が答えている。記事を書いたDavid Dennis(デビッド・デニス)氏は、「4月2日(太平洋標準時)から今週中に世界各国でhttps://calendar.live.com/の利用が可能になる」と述べている。日本では4月4日の時点では古いWindows Liveカレンダーだったが、5日早朝に確認したところ新しいスタイルに移行していた(図07)。

図07 デザインを刷新した「Outlook.com」のカレンダー機能

URLこそ古いままだが、以前(Windows Liveカレンダー)とは異なるルック&フィールはOutlook.comを踏襲。スケジュール登録も対象日付をドラッグすることでイベント入力ウィンドウが開き、即座に予定の登録が可能になった。他のユーザーとのイベント共有なども引き継がれ、家族やサークル活動といったコミュニティ内のスケジュール調整も容易。先行してきたGoogle Calendarを使用してきたユーザーには小さな改善に見えるが、Outlook.comで環境を統一使用としている方やWindows 8ユーザーには“大きな一歩”となるだろう(図08~09)。

図08 予定作成はドラッグすると現れるウィンドウから実行する

図09 自身のカレンダーを他者と共有することも可能

Microsoftは、Surface RTに含まれるOffice RTにOutlookが含まれない理由を明かしていない。だが、同社が電子メールやPIM機能をOutlook.comに集約させようとしているのは、以前から計画していたとおりである。この十数年、Microsoftは市場を席けんし、他者から追われる立場だが、インターネット戦略を取り違えたことで、追う立場に置き換わっているのが現状だ。

同社がOutlook.comの開発や運営に、どれだけの人材と予算を投入しているか公表していないが、いまだビジネスの根幹にある電子メールサービス、そしてPIMという普遍的なサービスを担うOutlook.comの成長からは、Microsoftのネットサービスに対する本気度を計ることができるだろう。

阿久津良和(Cactus