肉眼で見えるかもしれない「パンスターズ彗星」

3月にくるパンスターズ彗星はスゴイらしい。そんな話が、昨年の秋ごろから天文ファンの間でささやかれるようになっていました。この彗星は、2011年の6月に発見されたもので、2013年3月5日に地球に、10日に太陽に接近します。北半球で見やすい位置にくるのは、太陽から離れはじめる3月13日以降です。接近前から各地で観測が行われ、昨年秋ごろには、予想よりかなり明るいという情報が伝わっていました。そして、このペースが維持されれば、地球接近時には0等級、うまくいくとマイナス3等級以上と、いずれにせよ、夜空の星のどれよりも明るく見えると予想されました。

彗星そのものはそれほど珍しくはありません。望遠鏡とデジタルカメラ、そしてコンピュータを組み合わせた自動観測によって、年間50個以上、新たな彗星が発見されています。しかし、目で見えるほど、しかも、夜空の星のどれよりも明るいとなると、これは数10年に1度の大彗星ということになります。

たとえば、日本で見える0等級まで明るくなった彗星は1997年に接近したヘール・ボップ彗星。その前年の百武彗星、さらに前となると1976年のウェスト彗星です。あのハレー彗星ですら、前回の接近では3等級。つまり0等級の40分の1という明るさでしたから、スゴサがわかるというものです。

パンスターズ彗星は、地球の南側から北側に抜けるような軌道をとっていて、3月上旬までは南半球で観察されています。そして、北半球である日本で観察しやすくなるのは、地球と太陽に接近した後の3月13日からです。次第に暗くなりますが、3月いっぱいは見られます。はい、楽しみですね。では、観察方法を。といきたいのですが、ちょっと雲行きがあやしくなってきました。

昨年秋まで快調に明るくなっていた彗星ですが、暮れから、目に見えてペースがにぶっているのです。このままだと、よくて2等級くらいにしかなりません。これは、東京や大阪のような都会で、かろうじてみえるかどうかという明るさです。

さらに、この彗星は太陽との位置関係から、日没後に高度仰角10度という低空で見えることが分かっています。10度というのは、手をぴーんと伸ばしたときの、ゲンコツの上下の高さくらい。水平線すれすれといってもいいでしょう。そして春といえば、黄砂に春がすみ、空がかすんで見えにくいことこの上ありません。ちょっとトーンダウンしてしまうのです。

それでもハレー彗星クラスの明るさなのですから、見やすい彗星であることには違いありません。ただ、この予想の明るさ=2~3等級では、都会で肉眼では見えにくいので、双眼鏡をつかって探すのがおすすめです。ビルの窓など西の水平線が見通せる場所がいいですね。日没後30分~1時間の間が勝負です。日没30分後の位置関係で図にしてみましたので参考にしてみてください。13日~14日は月が目印になります。なお、彗星は「もやっ」という感じのかすみのかたまりみたいに見えます。双眼鏡の視野は、上下左右が5~7度くらいなので、水平線から視野分一つ二つあげるとちょうどいい感じでしょう。 ちょっと自信ないなという方は、世界でも最も充実している、全国に300以上もある日本の天文施設を利用してみてください。プラネタリウムや科学館、天文台などで、西の方が開けているところにある施設では、観察会をすると思います(町の真ん中にあるような施設だと、観察そのものができません)。施設の観察会の情報は、たとえば天文雑誌「月刊星ナビ」のサイトが充実しています。

どうして予想よりも暗くなったのか?

ところで、なんでこんなにも予想がずれていくのでしょうか? これは、彗星の正体をちょっと押さえると、理解しやすくなります。まず、彗星は氷のかたまりです。大きさは直径数km~数十kmくらいです。地球に接近するといっても数千万kmと月より100倍も遠いので、点にしか見えません。しかし氷ですから、地球に接近…ということは太陽に接近すると、蒸発してくだけ、氷とチリのゴミをまき散らします。それが彗星のまわりに数万kmから数十万kmという範囲でひろがるのです。さらに太陽の光におされて、尾を引くこともあります。本体は小さくても、まわりにまきちらしたゴミが彗星の存在を際だたせるのです。

ところが、どんな風に蒸発するのか、どう飛び散るかは、接近しないとなかなかわかりません。それで、今回の予測が二転三転することになったのです。ただ、これは彗星では「よくあること」なので、ベテランの天文ファンはあまり慌ててないのです。また、太陽に接近して、一気に蒸発して破壊され、ものすごく氷のゴミがまきちらされることもあります。その際は、突然「大化け」することもあります。今回、日本で見られるのは太陽に接近した直後なので、もしかしたら、もしかするかもしれません。

さて、3月13日以降。どうなるでしょうか。注目して待ちたいですね。

ちなみにパンスターズというのは、この彗星を発見したPanSTARRSプロジェクトにちなんでいます。プロジェクトはハワイのマウイ島に、天体発見ロボット望遠鏡を持っており、これによって発見されました。天空をにらむのは、1.4ギガピクセルのカメラをとりつけた集光口径1.8mの望遠鏡です。これが、かたっぱしから空を掃いて、天体を根こそぎ発見しているのです。プロジェクトホームページは英語ですがhttp://pan-starrs.ifa.hawaii.edu/public/です。彗星だけでもいままでに20個以上を発見しています。

著者プロフィール

浦山実
科学系キュレーター。
あんなことやこんなことを結びつけたり集めたりして(キュレーション)、おもしろくプレゼンする業界の人。科学、特に宇宙・天文をフィールドに活動をしている。モノぼけ担当ともいう。幼少期はその発言で哲学者をうならせたが、いまは、AKBをBGMにマンガを読みながら通勤電車にゆられる中年。廃人の友人が目立つが、まさかのあんな科学者とも知り合い。特技は読んだ本に何が書いてあったかを記憶すること。細かいことはすぐ忘れる。