突然ですが、みなさんは自分のおしっこ(尿)が、酸性かアルカリ性か知っていますか? 私は、先日お医者さんに測っていただきまして、pH=6と判明しました。pH=7が中性ですから、弱酸性というところですね。「ごくふつう、心配ない」だそうです。

さて、おしっこを飲めといわれたら、誰だってイヤだと思います。でも、それは弱酸性だからではないですね。ところが、希塩酸を飲めといわれたらどうでしょう。先日、そんな事件がありました。ある先生が授業中、教え子に罰として、希塩酸をひとくち飲ませたのだそうです。教え子はすぐにはき出した、あるいは飲み込んだそうですが、身体に別状はなかったそうです。その後、先生は謝罪し、処分を受けました。

さて、どう思いましたか? 実に危険で、酸で口や内臓がただれたらどうする? そんな風に思いましたか? もしそう思ったとしたら、それはちょっとだけ誤解があります。 希塩酸は、文字通り塩酸を希釈したものです。希釈の仕方はいろいろですが、学校で試薬としてよく使われるのは4%塩酸です。今回の希塩酸は「100倍に薄めた」そうですから、もし、この4%塩酸を使っていれば、0.04%塩酸ということになります。pHはざっと2程度。確かに強い酸性ですが、実はこれは、日常的に口に入れているレベルなのです。例えば、コーラやレモンのpHは2~2.5。ワインでも2.5。もし使ったのが4%塩酸ではなく、原液といわれるものなら35%塩酸ですから、100倍希釈後はpH1あまりとなります。これは確かに危険かもしれませんが、一口くらいならまず大丈夫でしょう。

ただ、この先生の行為が、安全だったかというと、それは違います。子供のメンタルに対するダメージはもちろん、衛生上の危険性があります。つまり、試薬は食品ではないのですから、もとより飲むことを想定していませんし、食品としてのチェックもされていません。試薬以外にもビーカーや周囲の環境からの汚染もありえます。

また、科学実験についての安全教育という観点が抜けています。もしマネをして試薬を安易に口にする、させるようになったらどうするのだということです。化学屋さんに聞くと、試薬を口にするようなことは絶対にしないし、させない。そもそも実験室(理科室)での飲食そのものが、何があるかわからないので、厳禁だとのことです。

つまり安全性というのは、1つの指標で判断してはいけないということですね。あたりまえのことですが「昔、希塩酸をなめたなあ」と私自身も抜け落ちていたことでした。

身近なもののpH値(出所:堀場製作所Webサイト。図の中の値は同社が市販品を購入し測定した結果の一例)

ちなみにpH。医者ではペーハー(ドイツ語読み)といわれましたが、最近の学校の理科では、JISにしたがい、ピーエイチ(英語読み)と発音しています。学校では0~14までで教えることが多いので、私も信じていましたが、定義からはマイナスや14以上もありえます。35%塩酸はマイナス1くらいのpHだそうです。