産業技術総合研究所(産総研)は2月4日、平常時(河川水中の懸濁物質が少ない時期)の阿武隈川水系の本流および支流中の溶存態および懸濁物質に吸着した形態(懸濁態)の放射性セシウム濃度のモニタリングを実施し、その結果を発表した。

成果は、産総研 地圏資源環境研究部門 地圏環境リスク研究グループの保高徹生研究員、同・川辺能成主任研究員らの研究グループによるもの。今回のモニタリング結果の一部は、2012年12月13日に京都市で開催された「東京電力福島第一原子力発電所事故における環境モニタリングと線量評価国際シンポジウム」で発表された。

東京電力福島第一原子力発電所(福島第一)から放出された放射性物質は地表面に沈着し、降雨などに伴い徐々に環境中を拡散することとなるが、特に渓流水や河川水を通じた放射性セシウムの移動は、水田などの水を用いた農作物への影響、山林などからの放射性セシウムの拡散状況の把握、河川底質や河口付近への放射性セシウムの移動などの環境動態評価において重要なポイントとなる。

水中の放射性セシウム濃度を測定しようと思う場合、それぞれ挙動が異なる溶存態と懸濁態で存在しているため、存在形態ごとの放射性セシウム濃度を測定する必要があるが、福島第一原発事故以降に実施されてきた河川水モニタリングなどでは、存在形態別の放射性セシウム濃度に関する情報は限定的なものとなっていた。

そこで研究グループは環境モニタリングの一環として、河川水中の懸濁物質(浮遊物質とも呼ばれ、水の濁りの原因となる物質)が少ない平常時の2012年9月14日および15日に福島県内の阿武隈川本流および支流の合計14地点において、溶存態放射性セシウムおよび懸濁態放射性セシウム濃度に関する水質モニタリング調査を行った。

調査方法は、橋の上などから河川水を30~40L程度採取し、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過後、ろ液を2Lまで濃縮。ろ液およびメンブレンフィルターの放射性セシウム濃度を、ゲルマニウム半導体検出器にて測定するという方法が取られた。また、一部地域では、5.0μm/1.0μm/0.45μmの3種類のメンブレンフィルターでろ過を実施し、懸濁物質の粒径範囲ごとの懸濁態放射性セシウム濃度を測定したという。

この調査の結果、阿武隈川本流の溶存態放射性セシウム濃度は、0.010Bq/L未満(検出限界未満)~0.068Bq/Lといずれの地点でも0.1Bq/L未満であることが確認された。また、懸濁態放射性セシウム濃度は、0.003Bq/L未満(検出限界未満)~0.207Bq/Lの範囲であったが、溶存態の放射性セシウム濃度は下流に行くにしたがい、溶存態・懸濁態とも濃度が増大している傾向が見られた。

画像1。測定された阿武隈川本流の水中の放射性セシウム濃度

さらに阿武隈川支流の溶存態放射性セシウム濃度は、0.010Bq/L未満(検出限界未満)~0.128Bq/L、懸濁態放射性セシウム濃度は0.018Bq/L未満(検出限界未満)~0.202Bq/Lの範囲であり、本流・支流のいずれの放射性セシウム濃度も食品中の放射性物質の基準値(飲料水)10Bq/Lと比較した場合で、全放射性セシウム濃度で約30分の1以下、溶存態放射性セシウムで約80分の1以下となるという。加えて、溶存態放射性セシウム濃度の存在割合は16~87%であり、溶存態放射性セシウムの存在割合は地点により大きく異なることが確認されたという。

画像2。阿武隈川本流の水中の放射性セシウム濃度(空間線量率は、文部科学省(2011)の第3次航空機モニタリングのデータを使用しているという)

画像3。阿武隈川支流の放射性セシウム濃度(空間線量率は、文部科学省(2011)の第3次航空機モニタリングのデータを使用しているという)

画像4。今回のモニタリング調査の結果(空間線量率は、文部科学省(2011)の第3次航空機モニタリングのデータを使用しているという)

このほか、懸濁物質の粒径範囲ごとの放射性セシウム濃度の測定では、調査が行われた2地点では5.0μm以上の粒径の懸濁物質に95%以上の放射性セシウムが吸着していることが確認されたとする。

画像5。2つの調査地点における粒径範囲ごとの懸濁態放射性セシウム濃度

なお、研究グループでは今後、福島県内の自治体や関連研究機関と連携を取ることで、同県内の環境水中の放射性セシウムの経時的なモニタリングを継続して実施していき、環境中の放射性セシウムの環境動態評価、農作物への影響評価などの基盤情報整備を行っていきたいとしているほか、これらのデータを活用した長期的な環境中の放射性セシウムの動態評価、農作物への影響評価を行うことで、農産物生産などの長期的な安全確保・対策の必要性の判断に資する情報の提供も行っていきたいとしている。