「泣ける」以外の表現に挑戦

鉄拳のもとに寄せられるオファーは、「振り子」のイメージから「泣けるパラパラ漫画」をリクエストするものが大多数だという。そんな中、それ以外の表現をしてみたいという動機から制作されたのが「スケッチ」という作品。「こういうものも出来ますよ、という感じで作ったんです」ということで、ストーリーものとはひと味違った世界が広がっている。


この作品は、だまし絵のように次々と物の見え方が変わっていくかのように展開されていく。鉄拳は「昔から視点を変えるのが好きでした。モノを正面から見るんじゃなくて、お笑いのネタを考える時に、どの角度が面白いかと考えているうちに、いろんな角度でモノをぐるりと見られるようになった」という。視点を変えてモノゴトを見ることに興味・関心があり、お笑いのネタでもそういった試行錯誤を繰り返していった結果、パラパラ漫画に結びついたと言えそうだ。

芸人とクリエイターの収入を比べると…

講座の終わりには質問コーナーが設けられ、「芸人とパラパラ漫画クリエイター、どっちがもうかりますか?」という率直なものも飛び出した。この質問に対して鉄拳は、「芸人は土日に営業があるので、その都度(報酬が)入ってきて、ある程度生活できる分は手に入りました。今はパラパラ漫画で手一杯のため営業に行っていないので、すぐに受け取れる収入がなく、月々の暮らしは本当に厳しい。ただ、この時期を乗り越えたら(収入が)ドンと入ってくる予定です」と答えていた。お笑いとパラパラ漫画への取り組みは「お笑い1、パラパラ漫画9」で行っていくそうで、今年はパラパラ漫画に注力することになりそうだ。

パラパラ漫画の生原稿を掲げてみせる鉄拳

パラパラ漫画はすべて手描きで制作しており、枚数にすると1分間のアニメーションを作るのに360枚の原稿が必要となる。PVなどは4分程度の長さが当たり前なので、原稿の数は1,200~1,300枚。それにプラスして修正分の追加もあるので、1作品あたり2,000枚程度の原稿を描くことになるから驚きだ。オリジナル作品では「絵を途切れさせず、すべての場面を繋げていく」という信条を持って制作しているため、その流れを断ち切らないために多くの原稿をボツにした経験もあるという。

また、パラパラ漫画の制作期間については、「振り子」を作るまでは1本あたり2カ月と長めの時間を取っていたとのこと。しかし、それ以降にオファーが多く寄せられるようになり、1作品あたり2週間程度に期間を短縮。芸人としての活動など、他の仕事を断ってパラパラ漫画1本で活動している状況だ。

将来的にはチームでの短編ムービー制作を視野に

一時はお笑い芸人をやめ、故郷に帰ろうと考えていたという鉄拳だが、パラパラ漫画という新たな分野で才能を開花させ、積極的に取り組んでいることが話しぶりからも伝わってきた。鉄拳は妻に色塗りの補助を頼む以外、すべての作業を自分ひとりでこなしているが、この体制ではいま現在寄せられている仕事をこなすのがギリギリだという。デジタル作画などの導入はせず、手描きにこだわるのが信条のようで、将来的には仲間を増やし、チーム制で作品制作をしていきたいと語る。

今後の予定について、「今はいただいた仕事で手一杯ですが、来年には短編ムービーを作って、世界に向けて発信していきたい」と意気込む鉄拳。クリエイターとしての鉄拳の今後に期待したい。