埼玉県ふじみ野市は12月2日、震度6弱の地震が発生したとの想定のもと、大規模な総合防災訓練を行った。この訓練では、市内全域で家屋の全半壊、橋梁・ライフラインの損壊など、大きな被害が発生したことを想定し、避難訓練・避難所運営訓練などを実施。

市役所では、市長を本部長とする災害対策本部を設置するとともに、市内全20カ所に地域防災拠点(避難所)を開設するなど、ふじみ野市地域防災計画に基づく初動体制の訓練を行った。

ふじみ野市役所

今回の訓練は、今年の5月21日に開催された災害対策本部会議において決定された「平成24年度ふじみ野市総合防災訓練大綱」及び「第1回ふじみ野市総合防災訓練実施要綱」に基づくもので、市内全域の市民参加による自助訓練、自治会、自主防災組織による共助の訓練、市役所、学校、警察、消防、自衛隊、各課の連携による公序の訓練を行った。こういった、大規模な総合的訓練を行うのは、同市にとっては初のことだ。

市長を本部長とする災害対策本部

ふじみ野市役所 総務部 危機管理防災課 課長 忍田敏昭氏

今回このような訓練を行った背景を、総務部 危機管理防災課 課長 忍田敏昭氏は、「ふじみ野市では、自主防災組織の組織率が88%ありますが、昨年の3月11日以降、実際の活動率をアンケート調査したところ、66%であることが明らかになりました。そこで、地域活動の活性化を図るとともに、災害に対する市民の意識、自助/共助の意識を高めること、そしてこれら地域と市役所などの公的機関の連携を図るための訓練を実施し、ここから得られる教訓を来年以降の訓練に活かしていくのが狙いです」と説明する。

当日は、午前8時30分に防災行政無線のサイレンおよび緊急速報メールを合図に訓練を開始した。ふじみ野市では、9月1日より災害時の新たな情報提供手段の一つとして、各携帯キャリアが提供する「緊急速報メール」を利用し、避難勧告などの緊急情報をスマートフォンや携帯電話に一斉配信するサービスを開始している。

市内の人に配信された「緊急速報メール」

午前9時には、市内20箇所の避難所の開設が完了し、その後、次々と市内の被害や避難所の状況が市役所内に設置された情報班に報告された。そして、災害対策本部では、これらの情報を踏まえ、警察、消防、自衛隊などとの連携および市役所の各対策班への指示を行った。

避難所に避難した住民

PHSで関係部署と連絡をとる対策本部

市内の被害状況の連絡を受ける情報班

今回の防災訓練において、これらの連絡用に同市が使用したのがウィルコムのPHS電話だ。同市ではPHSを、災害対策本部から各対策班への行動指示、各班からの被害状況や対応状況の報告、および各避難所から避難している人やけが人の人数、必要物資の報告等で使用した。PHSは東日本大震災以降、震災時発生時でもつながりやすいことから、自治体での導入が進んでいる。東京都では、豊島区や墨田区も導入している

同市が導入したPHSは全部で100台。災害対策本部を構成する人間、防災課の職員、各避難所の指導職員はPHSを平常時から携帯し、同市において震度5強以上の災害が発生した場合はすぐに集合し、連絡を取り合える体制を整える。

ふじみ野市が導入したのがウィルコムのPHS電話

避難所の職員もPHSを携帯し、連絡用に利用

ふじみ野市では、東日本大震災を経て、通信の確保、帰宅困難者への対応、備蓄品の確保について防災計画の見直しが必要だと感じたという。

同市がPHSを導入した背景を忍田氏は、「ふじみ野市では、3月11日の東日本大震災において、すべての通信機能がシャットアウトされ、自転車部隊により情報収集したという苦い経験があります。そこで、機動性を持ちながら、災害時でも確立しやすいが通信手段を複数持っておきたい思いがあり、その1つのがPHSです」と説明する。同市では、PHSに加え、今後は、固定式の無線電話や衛星携帯なども導入する予定だという。

各避難所の職員のPHSには、あらかじめ報告用のメールテンプレートが登録され、避難所の人数、けが人の人数、必要な物資などは、このテンプレートを使ってメールで報告する。そして、市役所の情報班は、これらのメールをPCで印刷し、壁のボードに随時はりつけ情報共有を図る。

情報班のPCでは、各避難所からPHSで送られてくるメールを受信。プリントアウトし、情報共有のためホワイトボードに貼り付けていた

以下は訓練の模様を撮影した動画だ。


ふじみ野市市長 高畑博氏

訓練を終え、ふじみ野市市長 高畑博氏は、「訓練のための訓練ではいかけないという思いがずっとあり、今回はそれほど細かいストーリーを作らず訓練を実施した。実際の災害では、避難所に市役所の職員がいないかもしれないし、電気がついていないかもしれない。そのため、地域の人が、自助、公序により地域を守っていくことが重要だ。今日は寒い中で行ったので、より防災意識が高められたのではないか。今後は、今回の訓練で得られた課題を解決し、継続的に訓練を実施していくことが災害に強いふじみ野市にとって必要なことだ。来年は夏ごろまでに行いたい」と挨拶した。

同市では、PHSのほうが携帯よりもランニンコストが安いという検証結果が得られているため、通常行業務で利用している携帯電話を逐次、PHSに切り替えていく予定だという。