3月11日、東日本大震災から1年が経過したが、2月3日には、東京都は震災時を想定した帰宅困難者対策訓練を実施した。東日本大震災で発生した大量の帰宅困難者によって都内が混乱した状況を踏まえて、埼玉県、千代田区、新宿区、豊島区が合同で実施した大規模訓練だ。
当日は東京駅、新宿駅、池袋駅という主要駅および周辺部を中心に参加者が集まり、訓練を実施。帰宅抑制のために商業施設や鉄道事業者による利用者の一時保護や、一時滞在施設への誘導などが行われた。
帰宅者を駅構内や商業施設の駐車場などに参加者を誘導し、一時的に滞在させる訓練では、水や防寒具などを実際に配布。東日本大震災時には駅施設が早い段階で閉鎖されたが、今後は一時待機場所としての役割を果たせそうだということを確認した。
また、実際に徒歩帰宅するケースを想定した訓練も行われ、埼玉方面には徒歩帰宅者を支援する支援ステーションが設置され、神奈川や千葉方面への帰宅を支援する方法として、陸路での代替輸送のほかに海上移送の訓練も実施され、これには在日米軍や海上自衛隊も参加した。
留まる・帰るという訓練以外に行われたのは、情報ツールの検証だ。当日は新宿区と豊島区にある携帯電話やスマートフォンを対象に、緊急エリアメールが配信された。これは地震の直前に配信される緊急速報と同じシステムを活用したものだ。また、新宿区ではエリアワンセグの配信も行われ、滞在施設に関する情報などが提供された。
携帯キャリアも訓練に参加しており、ソフトバンクは日比谷公園に特設のテントを設置、アンテナ車の配備も行った。有事には衛星回線を提供し、ハブ拠点と地方拠点を遅延の少ない衛星シングルホップで接続、地方拠点同士はハブ拠点を経由する衛星ダブルホップで接続する形で連絡を可能にするという。
また、iPadを活用した目視による現場確認ソリューションも提供され、iPadを利用した多地点でのハイビジョンビデオ会議を実現する「ホワイトクラウドビデオカンファレンス」を利用し、遠隔会場との間でビデオ通信を実現。実際に豊島会場など遠隔地の様子を目視で確認できた。
iPadで遠隔地の状況をつかむ&イエデンワで安定した通話
訓練の中で、特に注目したいのはITソリューションの活用だ。東日本大震災発生当時、音声通話が非常につながりにくい状態だったのに対し、Twitter等が有効に機能したことは記憶に新しい。また、携帯各社はもちろん、固定電話も混雑から規制がかかり通話がつながりにくくなっていた中、ウィルコムのPHSは比較的安定した通話ができていた。これは、PHSが携帯電話よりも小さい範囲だけをカバーする基地局を利用しており、大量に基地局を敷設しているため混雑に強いという特性があるためだ。
ウィルコムでは、震災当日、手持ち端末を新橋駅前と虎ノ門の本社前にテーブルを出して並べ、通行人に利用させたという。
この「災害時のつながりやすさに」注目したのが、豊島区と墨田区だ。両区では、今回の帰宅困難者対策訓練よりも前に、iPadとPHS組み合わせた形で防災訓練を実施している。
墨田区が実施したのは、対策本部と避難所となる小学校にiPadとPHSを配備し、連絡用に利用するというもの。本部側はiPadのテレビ会議を利用して避難所の様子を確認するとともに、PHSでの状況把握を行った。
一方豊島区では、iPhone/iPadを活用した災害シミュレーションを実施。各地に派遣された現場職員がiPhoneで被害状況を写真に撮り送信。災害本部では、送られてきた写真をiPadで確認し、指示を出すというものだ。写真には、位置情報が記憶されており、撮影した場所を地図上で確認することが可能だ。また、同時にiPadの画面を大型ディスプレイに表示し、本部内での情報共有も行っている。
これらは、リアルタイムなビデオ会議、高精細な写真と画面、位置情報や地図との連携といったiPhoneとiPadの特徴を活かしながら、回線が混雑した状況でも通話が確保できるPHSを組み合わせることで、災害時の迅速かつ確実な対応を実現する手法だ。
2月3日の訓練では、墨田区が訓練で使用したシステムが池袋と日比谷の災害時帰宅支援ステーションに設置され、互いの連絡用として利用された。
2月3日の訓練では、池袋と日比谷の災害時帰宅支援ステーションに設置され、互いの連絡用として利用された。電話は固定電話のように見えるが、ケーブルレスのPHS。固定電話と同じ操作なので、誰でも迷うことなく利用できる |
iPadは3G回線で接続しており、その映像は外部出力アダプタを利用して大型のテレビにも出力されていた。iPad本体で表示される映像は非常に高精細で、4分割された画面でも十分に遠隔地の様子が見て取れるため、災害時には現状確認に役立つだろう。