気象庁は11月20日、気象庁の海洋気象観測船による長期の海洋観測データを解析することで、国内で初めて海洋酸性化に関する定期的な監視情報の提供を開始すると発表した。

近年、地球温暖化(気候変動)の主要な原因とされる大気中の二酸化炭素が増加したため、海洋に溶け込む二酸化炭素も増え、「海洋酸性化(水素イオン濃度指数(pH)の低下)」が進行している可能性が指摘されていた。海水には様々な物質が溶け込んでおり本来、弱アルカリの性質を示すが、二酸化炭素が水に溶けると酸の性質を示すようになる。産業革命以降、大気中の二酸化炭素が増加、その一部は海洋に溶け込み、海洋中の二酸化炭素の総量が増加、徐々に弱アルカリ性の海水が酸性側に向かうようになっており、もしこのまま海洋の酸性化が進行すれば、大気中の二酸化炭素濃度を左右する海洋の二酸化炭素吸収能力の低下や、海洋の生態系への影響などが懸念されることとなる。

気象庁では、そうした地球温暖化や海洋酸性化の状況を把握するため、海洋気象観測船「凌風丸」ならびに「啓風丸」により北西太平洋域を対象に長期にわたり継続して海洋観測を実施しており、今回、その観測データをもとに、北西太平洋海域(東経137度線上の北緯3度~34度)の表面海水中における海洋酸性化の状況についての解析を行った。

1984年以降の表面海水中における水素イオン濃度指数の長期変化傾向を推定したところ、東経137度線に沿った海域では、観測を行ったすべての緯度帯においてpHが10年あたり約0.02低下し、海洋酸性化が進行していることが判明。

東経137度線における表面海水中における水素イオン濃度指数(pH)の長期変化。青:北緯10 度、緑:北緯20度、赤:北緯30度におけるpH。図中の数字は10年あたりの変化率(減少率)。pHの数値が低くなるほど(下に行くほど)、海洋酸性化が進行していることを示している

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第4次評価報告書(2007)では、産業革命以前(1750年)と比べてpH は全海洋平均で0.1低下していることが報告されており、大気中の二酸化炭素が増えて海洋に溶け込むことにより、21世紀末までにさらに0.14から0.35低下することが予測されている。今回の北西太平洋の中緯度から低緯度にわたって、pHが10年あたり約0.02低下しているという結果は、過去250年間の低下量0.1と比べると早く、現在予測されている低下の割合に匹敵するものであるという。

なお、気象庁では今回の解析結果をもとに、Webサイト「海洋の健康診断表」通じて、海洋酸性化に関する定期的な監視情報として提供していくほか、得られた観測データをより有効に活用するべく、地球温暖化や海洋酸性化の監視・予測研究を行う国内外の政府・研究機関に提供していくとしている。

左が国際連携による観測網。赤い四角の囲みが気象庁の担当海域。黒い線が世界各国による海洋観測線。右が気象庁の担当海域における観測網。赤線が気象庁観測船による海洋観測線。オレンジの点線が東経137度線(海洋酸性化情報の対象海域)