米Microsoftは10月29日にサンフランシスコでWindows Phone 8のローンチイベントを行った。同イベントで発表された端末はNokiaの「Lumia 920」「同820」、Samsungの「ATIV S」「同Oddysey」、そしてHTCの「Windows Phone 8X」「同8S」だ。iPhoneとAndroidで市場の大多数が握られているスマートフォン市場へ、Microosftはこの6機種を投入し本格的な反撃を開始しようとしている。

今回Windows Phoneを投入する3メーカーのうち、SamsungとHTCはこれまでAndroidスマートフォンを主力製品としてきたが、ここにきて両社はWindows Phoneへも本腰を入れ始めている。この流れの大きな理由の1つは、米国・カリフォルニアで8月24日に認定されたSamsungによるAppleのiPhoneおよびiPad関連特許の侵害だろう。裁判ではSamsungが10億5,000万ドルの損害賠償金を支払うよう命じられた。この結果は各社のAndroid一辺倒の姿勢を考え直させる動きを加速化したと言って良いと筆者は考えている。

一方AppleとMicrosoftはUIなどの特許に関しての協力関係を築いている。Windows Phoneはメーカーにとっては、訴訟リスクを減らせるセーフティーな開発環境が用意されていると言える。Androidスマートフォンに次ぐ主力製品の開発を進めたい各メーカーにとって、Windows Phone 8の存在は今後徐々に大きなものになっていくのではないだろうか。

Windows Phone 8は、PC向けOSであるWindows 8と共通のコア技術が採用されている。ファイルシステムやWebブラウジング、暗号化などのセキュリティ機能、メディア再生機能、ネットワーク機能などに関する技術が、Windows 8と共通である点が特徴だ。さらに、WebブラウザもWindows 8と同じくInternet Explorer10が搭載されているなど、PCと親和性の高いクロスプラットフォームなOSだ。

そのWindows Phone 8を採用したHTC製端末が「Windows Phone 8X」「Windows Phone 8S」の2機種である。フラッグシップ機となるWindows Phone 8Xは4.3インチディスプレイ、Qualcomm製の1.5 GHz「Snapdragon S4」プロセッサを搭載。RAMは1GB、内蔵ストレージ容量は16GB、そしてNFC(近距離無線通信)チップを搭載している。また通信規格は高速なLTEにも対応しているなど、魅力的なスペックとなっている。

Windows Phone 8を採用したフラッグシップ機「Windows Phone 8X」

一方、ミドルレンジモデルという位置づけなのが「Windows Phone 8S」である。1GHzの「Snapdragon S4」デュアルコアプロセッサー、メモリーはWindows Phone 8Xの半分となる512MBを搭載。ディスプレーは4インチで、画面解像度は従来のWindows Phone 7.5端末と同じWVGAとなっている。但しLTEには非対応だ。さらには高品質のサウンドを再現する「Beats Audio」技術も従来の同社ラインナップと同じく組み込んでいるが、これは上位モデルのWindows Phone 8Xも同様である。

ミドルレンジモデルの「Windows Phone 8S」

HTCはこの2機種をグローバル展開し、HTC OneやDesire、HTC JといったAndroidスマートフォンと並ぶ主力製品として各国で販売する予定である。そしてこの2機種はOSがWindows Phoneである以外にも大きな特徴を持っている。

それは、これまでの同社製端末とは一線を画するデザインを採用したことだ。上質な質感や4色というカラーバリエーションなどは同時に投入されるNokiaのWindows Phone端末「Luminaシリーズ」と似たテイストを感じる。これは従来のAndroid製品との差別化を狙ったことや、Nokiaと歩調を合わせることでWindows Phoneの生まれ変わったイメージを消費者に与えようという狙いもあるのだろう。黒や白のカラーリングが多かったこれまでのHTC端末の中で、今回のWindows Phoneのカラフルなカラーリングは新しいユーザー獲得にも優位に働くと期待できそうだ。

なおMicrosoftと提携しWindows Phoneの雄として君臨するNokiaだが、その現状はお世辞にも上々というわけではない。今年1~3月期におけるWindows Phoneの販売台数は200万台、4~6月期でもわずか400万台で、iPhoneの3500万台と比べ大きな開きが出ている。一方HTCの2012年度7~9月期決算は、前年同期48%減となっており、Android端末を主力としたグローバル市場での展開は予想以上の苦戦を強いられている。NokiaはSymbian OS、HTCはAndroid OSの雄として君臨し続けてきた企業が次は同じプラットフォームで競い合うというのは非常に興味深い。ただ、それだけWindows Phoneの市場には可能性とチャンスがあるということなのだろう。

とはいえWindows Phone 8市場にはスマートフォン市場の首位に君臨するSamsungも端末を投入する。米国での特許訴訟がAppleに有利な評決を出したこともあってか、SamsungはMicrosoftとの連携にも今後積極的に動いていく印象だ。その結果HTCはNokiaのみならず、ここでもSamsungをライバルとしてグローバル市場で展開していかなければならず、HTCの前途は今後も予断を許さないのが現実ではある。

Windows Phone 8によって市場攻略の新たな扉が開かれた格好のWindows Phoneだが、Android OSの席巻する市場の中でいかにユーザーから支持を獲得するかが今後の大きな課題だ。iOSとAndroid向けアプリが50万本ほど用意されているのに対しWindows Phone向けはその5分の1程度しかないなど出遅れ感があるのも否定できない。だが世界的にPCのWindows 8がリリースされ、親和性の高いWindows Phone 8も注目され始めていることから、今後は開発者の目を今まで以上に引き付けることもできるだろう。Microsoftの反撃の動きに乗って、HTCがWindows Phone 8プラットフォームで今後どのような展開を見せていくのか、巻き返しに期待したい。

(記事提供: AndroWire編集部)