石井主任のひらめきから生まれた"コンバーチブル"なタッチパッドリモコン

だが、Windows 8においては、タッチ機能は必須である。そこで、タッチパネル以外の方法で、タッチ機能を実現する仕掛けが模索された。

アイデアの1つは、タッチパッドを別に用意するという方法だ。しかし、すでにキーボード、マウス、テレビリモコンという3つの入力デバイスが用意されるなか、4つめのデバイスとしてタッチパッドを用意するのは現実的ではないとして、早い段階でこの方法は見送られることになった。

2つめにはキーボードにタッチパッドを搭載する方法だが、キーボード自体が大型化し、それを持ちながらテレビを視聴したり、PCを操作するといった方法は、利用者に重量や大きさの観点から負担を強いる可能性があるとして、アイデアから外された。複数の指で操作するなど、Windows 8では大型のタッチパッドが求められることも、キーボードへの搭載を見送る理由の1つになった。

そしてたどり着いたのが、リモコンと一緒にタッチパッドを搭載するという方法だった。

リモコンに搭載されたタッチパッドで、「VALUESTAR N」を操作する石井主任

ある日、石井主任は、何気なく自分のスマートフォンをいじっていた。手のひらサイズのスマートフォンの裏面を見た時に、ふと、「このスペースをうまく利用できないか」ということに気がついたという。

そこで「VALUESTAR N」に付属するテレビリモコンの横幅寸法をスマートフォンに合わせ、各種ボタンは指に届く範囲に改良。縦の長さも短くして、リモコンのボタンを効率的に配置し、さらに背面には複数の指でも操作できる大型サイズのタッチパッドを搭載することにした。

「リモコンとしてのオペレーションポジションを考えた場合、限界はスマホの幅であると考えた。そのサイズにこだわり、何度も試作を重ねた」という。

リモコンの試作品は、発泡スチロール製のものだけでも9個。モック仕上げのものでも4種類にのぼる。これだけの試作品の多さからも、石井主任がこのリモコンにこだわったことがわかるだろう。

アーチ形状を採用し、リモコン面を机の上などにおいて操作する際は、電池収納スペースを利用して固定しやすくする一方、パッド面を上に置いた場合は、ロゴが入った部分の突起や、ボタンまわりの突起をうまく利用することで、底面にくるリモコンのボタンが押されないような工夫も施している。

同梱するタッチパッドリモコン。両面ともアーチ形状を採用し、どちらの面を上にしても固定しやすい配慮がなされている

側面上部に切り替えスイッチを備える。また、電源ボタン部分やロゴが入った部分を凸型のデザインとし、チャンネル選択ボタン部分を下に向けた場合でも、押されない工夫をしている

全体はアーチ状。ちなみに、タッチパッド搭載面は"裏面"ではなく……

リモコンとタッチパッドの切り替えには、ジャイロセンサーを用いることも検討されたが、寝転がりながら斜めに持って操作した時や、タッチパッドリモコンを立てた時に、ユーザーが使いたい面を判別できない恐れがあった。また、ジャイロセンサーを搭載することでの電池寿命の課題などもあり、ボタンによる切り替え方式とした。

ちなみに、タッチパッドの部分を示す際に、リモコンの「裏側」という表現は御法度だ。同社では、リモコン面、タッチパッド面と表記するのが正しいとする。そこにも、新たなタッチパッドの仕組みを重視する姿勢が感じられる。

同梱するマウス。ホイール部にWindows 8の機能を割り当てられる仕様が好評という

さらに同社では、マウスにも工夫を凝らした。NEC独自の機能として、チルトへの機能を新たに割り当て、ホイール部を左にチルトするとチャーム、右にチルトするとアプリケーション一覧が表示されるというようにWindows 8の操作環境に最適化した機能も追加している。

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