九州大学(九大)は10月2日、これまで「胆管上皮細胞」から発生すると考えられていた「肝内胆管がん」が、実は肝細胞に由来することを発見し、さらに肝細胞における「Notchシグナル」の活性化が肝内胆管がんの発症や進行に重要であることも明らかにしたと発表した。

成果は、九大 生体防御医学研究所の鈴木淳史准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間10月1日付けで米国科学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に掲載された。

肝内胆管がんは、肝臓に発生する悪性腫瘍の中で2番目に多く、その発症率や死亡率は近年世界的に増加している。肝内胆管がんとは、肝臓内で胆管を形成する胆管上皮細胞から発生する悪性腫瘍という定義だ。

ウイルス性肝炎に起因する肝細胞がんとは異なり、その発症原因は不明で、放射線療法や化学療法による治療効果は低く、肝切除が唯一の治療法ともいえる。そのため、一般的に予後不良なケースが多く、腫瘍を完全に切除できた場合でも5年生存率が40%程度、切除できなかった場合は10%にも満たないのが現状だ。

病理学的所見において、管状もしくは袋状の形態を有する偽胆管構造の増加が顕著であることが、肝内胆管がんが胆管上皮細胞に由来することを示す根拠の1つになっている。しかしながら、この仮説を科学的に検証した例はこれまでにない。臨床的に見て、ウイルス性肝炎の患者にも肝内胆管がんの発生がしばしば見られることから、肝内胆管がんが肝細胞の形質転換に由来する可能性も排除できないのだ。

このように、肝内胆管がんの研究は進んでおらず、その起源となる細胞も特定できていない状況である。肝内胆管がんの起源やその発症機構が明らかになれば、治療の難しい肝内胆管がんを初期検診で見つけ出すための技術開発や、これまでにないまったく新しい概念に基づいた治療法の開発が期待できるというわけだ。

そこで研究グループは今回、肝内胆管がんが従来の考え通りに胆管上皮細胞から生じるのか、それとも実際は肝細胞から生じる腫瘍なのかを検証すべく、それぞれの細胞を特異的に標識し、それらの子孫を正確に追跡できる遺伝子改変マウスを作製。

そして、その作製したマウスに薬物を投与し、実験的に肝内胆管がんを発症させた。それにより形成された肝内胆管がんが、肝細胞と胆管上皮細胞のどちらを起源としているのかが検討されたのである。

その結果、これまでの常識を覆し、肝内胆管がんが、胆管上皮細胞ではなく肝細胞から生じる腫瘍であることが発見された。さらに、肝内胆管がんの形成過程において、肝細胞が胆管上皮細胞に似た細胞へと変化するためには、肝細胞におけるNotchシグナルの活性化が重要であることも判明したのである。

なおNotchシグナルとは、さまざまな細胞の分化調節を担う進化的によく保存されたシグナル伝達経路の1つだ。

今回の研究で得られた結果は、ウイルス性肝炎の患者がなぜ肝内胆管がんを発症するのかという臨床的な疑問に対する答えを提供しているかも知れない。このような症例では、肝炎ウイルスに感染した肝細胞がNotchシグナルの活性化を介して胆管上皮細胞に似た細胞へと変化し、肝内胆管がんの発症を導くと考えられるからだ。

今回の研究において、Notchシグナルを抑制することによって肝細胞の運命転換を抑制できたことは、Notchシグナルの抑制が肝内胆管がんの発症を抑えるための治療戦略として有望であることを示唆しているという。

今回の成果は、肝内胆管がんの起源となる細胞を同定できたことで、これまで不明確であった肝内胆管がんの発症機構を解き明かす土台を作ることができた形だ。

今後は、肝細胞においてNotchシグナルの活性化が誘導される機序やNotchシグナルの活性化がもたらす肝細胞の遺伝子発現変化などに注目し、肝内胆管がんの発症を制御する分子機構を明らかにしたいと、鈴木准教授らは語る。

また、マウスを使った研究の結果を基盤としてヒトの臨床サンプルを解析することで、肝内胆管がんという難治性疾患に対する革新的な治療法の開発に貢献したいと考えているともコメントした。