カシオ計算機から、グランドピアノの豊かな響きと繊細な余韻を再現する電子ピアノの最新モデルが9月中旬から順次発売されている。新モデルでは、88鍵盤すべてで異なる弦の共鳴音を精巧にシミュレートする驚異の新音源を採用し、グランドピアノに肉迫するサウンドとプレイアビリティを実現している。今回は、そんな注目の新モデルの商品企画を手がけた同社の岩瀬広氏と、同じく鍵盤やサウンドのコーディネートを担当した新野立子氏に、そのこだわりやさまざま魅力についてお話を伺った。
今では一般家庭でも身近な存在となった電子ピアノは、1990年には国内市場においてアコースティックピアノの出荷台数を逆転。以降、その比率は年々高まり、2011年には電子ピアノが90%を占めるまでに広く普及している。カシオ計算機では、1991年に世界初のCDプレイヤーを搭載した電子ピアノ「CELVIANO」(現行モデルはCDに代わりUSBメモリなど対応)を、2003年には当時の世界最小・最軽量となるスタイリッシュな「Privia」を発売するなど、常に斬新なアイディアと最新のテクノロジーで電子ピアノ市場を牽引してきた。
そして今回、満を持して登場するのが、同社の最先端デジタル技術によって大幅な進化を実現した新モデルというわけだ。今回のインタビューでは、「Priva」「CELVIANO 」それぞれの新しい代表モデルについてお話を伺った。新モデルの概要とラインナップについては、別記事「カシオ、発音から消音までの音の変化を自然に再現した電子ピアノ」を参照いただきたい。
―― 今回の「Privia PX-850」および「CELVIANO AP-450」の開発にあたり、特に注視したポイントなどあれば聞かせてください。
岩瀬氏「新モデルのポイントは大まかに言って3つです。電子ピアノといえば、まずは楽器であるからこそ、その音が何よりも1番大切であると考えています。サウンドの方向性は、もちろんグランドピアノに限りなく近いものを目指しており、新開発のテクノロジーによってリアルな音、そしてリアルな響きを追求しています。
次に、プレイヤーの演奏を支える鍵盤です。いくらリアルな音源でも、それを演奏する鍵盤の表現力が伴わなくては、せっかくの魅力も半減してしまいます。
そして3つ目が、ボディのデザインやサイズといったルックスの部分です。家庭のリビングなどでも利用されることが多いため、高級感だけでなく家具や壁紙との調和なども求められる、重要な要素なんです。電子ピアノは、これら3つのポイントが常に高い次元で要求される製品であり、それぞれにこだわり抜いた開発を行いました。その開発工程は、本当に気の遠くなるよう作業の連続でした(笑)」
―― 両モデルともに新音源が採用されましたが、従来機種の音源とは具体的に何が違うのでしょうか?
岩瀬氏「これまでのモデルで採用していた『リニアモーフィング AIF音源』は、それぞれの音階もしくは音の強弱に対して、マルチサンプリングした素材同士のサウンドをモーフィング技術で作り出して補完していました。これによって、単にサンプリングの数や容量を増やすことでは限界があった、ピアノサウンドの再現度を格段に向上させました」
岩瀬氏「今回の新モデルでは、この技術に加えて、新たに発音から消音にいたるまでの"響き"の変化を再現できる『マルチ・ディメンショナル・モーフィング AiR音源』を開発しました。音源内には、88鍵盤すべての弦の共鳴に、個別に対応可能な88基のデジタル共鳴器を搭載しています。
グランドピアノで鍵盤を叩いたとき、つまりピアノ内部のハンマーが弦を叩いたとき、互いの弦が共鳴することで生まれる複雑な響き『ストリングス・レゾナンス』や、時間とともに変化する音質・音量の変化までも、よりナチュラルに表現できるようになりました。そのサウンドの臨場感は、まさにアコースティックピアノに肉迫するものとなっています」
新野氏「"響き"といった部分では、ピアノ曲の演奏時によく使われるダンパーペダルを使用したときに変化する美しい響きをシミュレートする『ダンパーレゾナンス』機能もあります。普段からアコースティックピアノに親しんでいる皆さんにも、そのピアノらしい繊細な余韻とふくよかな響きを感じていただけるはずです。
さらに、グランドピアノの大屋根を開閉したときに生じる音の変化をデジタル回路で表現する『リッドシミュレーター』も備えていますので、本物のアコースティックピアノにより近い感覚を楽しめます」
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