国立天文台は7月5日、天文広域精測望遠鏡「VERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)」、超長基線電波干渉計「VLBA(Very Long Baseline Array)」(米国)、メッツァホビ電波天文台(フィンランド)の共同観測によって、電波(活動)銀河「3C84」の電波での変動の様子が明らかになったと発表した。

成果は、国立天文台の永井洋氏を中心とする、日本、イタリア、フィンランド、台湾からなる国際研究グループによるものだ。

またVERAとは、国内の「VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線干渉計)」4台(水沢局、小笠原局、入来(鹿児島)局、石垣島局)を連動させた、直径2300km(水沢局~石垣島局間)と同等の性能を発揮できる電波望遠鏡を用いて、銀河系の3次元立体地図を作製しているプロジェクトだ。国立天文台を中心に多数の大学や研究所から様々な分野の研究者が参加しており、2003年から活動している。

そして電波銀河3C84は地球から約2.3億光年の距離にある天体だ(画像1)。大質量ブラックホールから噴出する相対論的ジェットが放つ強烈な放射によって、電波からガンマ線にわたって光り輝いている。

画像1。電波銀河3C84

その3C84からのガンマ線を最初に検出したのが、2008年にNASAに打ち上げられた、日本を含む国際プロジェクトで運用中のガンマ線天文衛星(ガンマ線宇宙望遠鏡)「フェルミ」だ。

また、3C84からのガンマ線は1990年代には検出されていなかったことも確認されており、現在と比べて7分の1以下という暗さだったことがわかっている。つまり、ガンマ線は近年になって明るくなったと考えられるというわけだ。

一方で、VERAの観測によって2005年頃から3C84の中心核付近で電波増光が発見されており、電波増光とガンマ線増光に何らかの関係があるのではないかと注目されていた。

そこで研究グループは、VERAなどを駆使して、2009年からの約2年間にわたり観測を実施。電波増光が起こっている中心1パーセク(pc)以内の領域に的を絞って、構造の変化(画像1)や明るさの変動(画像2)が調べられた。この間、2回のガンマ線フレアが報告されたが、電波ではガンマ線フレアに呼応した変動が見られないことが確認されている。

画像1は、VERAの43GHz観測で得られた3C84の電波画像。(a)と(b)の間、(c)と(d)の間にガンマ線フレアが起こったが、電波構造には大きな変化は起きていない。

画像2は、3C84の電波強度変動。シアンで描かれた点が、メッツァホビの7mm電波の強度変動で、黒がVLBAの2cm電波の強度変動。期間を通じて電波は明るくなっている。一方で、ガンマ線フレア(ピンクの縦線の時期)が起こった前後で、電波に大きな変動は見当たらない。「↑」の印はVERAの43GHzの観測が行われた時期を示す。

画像2。VERA43GHz観測で得られた3C84の電波画像

画像3。3C84の電波強度変動

電波とガンマ線の変動に相関が見られなかった理由として、ガンマ線フレアが起こっている領域が電波では見えていない可能性が挙げられる。相対論的ジェットは根元に近くなるほど、電子密度や磁場強度が高くなり、電波が抜け出てこられなくなる。今回の観測では波長2cmと7mmの電波を使って観測したが、これらの電波が抜け出て来られない領域にガンマ線放射領域が潜んでいると予想されるという。

研究グループは今回の結果に対し、ガンマ線放射領域にヒントを与える結果であると考えるとコメント。ガンマ線放射源の謎の解明をめざして、今後も引き続きVERA電波望遠鏡による精力的な観測を計画している。