東京大学大学院 理学系研究科附属 天文学教育研究センター 木曽観測所を中心とする研究グループは6月28日、同観測所が新しく開発した超広視野CCDカメラ「Kiso Wide Field Camera(KWFC)」(画像1)を用いた大規模な超新星探査プロジェクト「KIso Supernova Survey(KISS)」を2012年4月より開始し、早くも超新星爆発の発見に成功し、国際天文学連合(IAU)により「SN2012cm」(画像2)と命名されたことを発表した。

画像1。木曽シュミット望遠鏡にとりつけられたKWFC。左側にカメラ本体、右側にフィルター交換機構が写っている。(c) 東京大学

画像2。SN2012cmの画像。左から2012年4月28日、5月13日、両者を引き算した画像だ。新しく明るく輝く天体が5月13日の画像には写っており、引き算画像にも残っていることがわかる。(c) 東京大学

成果は、東大大学院 理学系研究科天文学専攻の諸隈智貴助教、同酒向重行助教、同三戸洋之特任研究員らを中心とした、甲南大学、国立天文台、ロチェスター工科大学、広島大学、台湾国立中央大学の研究者が協力した国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、国際天文学連合回報「International Astronomical Union Circulars」に掲載された。

太陽の8倍以上の非常に重い星や、2つの星がお互いの周囲を回っている連星の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こす。宇宙に存在する水素とヘリウム以外の元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと現時点では考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象であるため、近年、世界中の多くの研究機関で、超新星爆発をターゲットとした観測が行われている。

超新星爆発は、そこに星が存在していたことを示す直接の証拠だ。これまで可視光で爆発の瞬間である「ショックブレイクアウト現象」(画像3・4)をとらえた観測例はなく、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままだ。なお、ショックブレイクアウト現象とは、超新星爆発の瞬間に星内部で発生した衝撃波が、星の表面を通過する際に、急激に、わずか数時間の間、明るく青く(=高温)輝く現象のことである。

画像4は、ショックブレイクアウト現象で予想される明るさの変化(光度曲線)。その見方だが、赤い線はこれまでによく観測されている超新星の光度曲線。爆発の瞬間、ショックブレイクアウト現象により、わずか数時間だけ明るく輝く時期(拡大図の青線)があると理論的に予想されている。

画像3。ショックブレイクアウト現象を含めた超新星爆発の流れの想像図。画像制作:学術コミュニケーション支援機構。(c) 東京大学

画像4。ショックブレイクアウト現象で予想される明るさの変化(光度曲線)。(c) 東京大学

その理由は、我々の天の川銀河や隣のアンドロメダ銀河のような地球に近い一部の銀河に属する星を除くと、遠方の銀河の個々の星々は暗いためである。星を1つ1つ調べることは難しいので、短時間ながら太陽10億個分もの明るさで輝く超新星爆発の観測が重要になるのだ。

爆発の瞬間に超新星が発する光からは、多くの情報を引き出すことができる。例えば、通常は測定することが難しい、爆発前の星の大きさをより正確に求めることができ、星の一生をより正確に理解できるようになるのだ。

また、2011年のノーベル物理学賞の受賞理由となった、宇宙の加速膨張の発見に使われた種類の超新星(Ia型)の爆発の瞬間の光は、いまだ不明な爆発前の連星の正体を知る手がかりになるのである。

そんな超新星をターゲットとした探査プロジェクトが、KISSである。ほかの超新星探査とは手法を変え、一晩の間に1時間おきという短い間隔で空の同じ領域を監視する手法を採ることで、極めて稀な現象である超新星爆発の瞬間をとらえることにしたことが特徴である。

そもそもなぜ超新星爆発の瞬間をなかなか可視光で撮影できないかというと、超新星爆発は、普通の銀河では約100年に1度の頻度でしか起こらない現象だからだ。

よって、天の川銀河やアンドロメダ銀河などの地球近傍の銀河ではそうそう起こらず、効率よく発見するためには、一度に大量の銀河を観測する必要があるのである。それを実現するために開発された広視野角CCDカメラのKWFCは、2度角四方の領域(満月16個分)を一度に観測することができ、珍しい現象をとらえるのに最適な性能を持つ(画像5・6)。

画像5。KWFCに8個のCCDがモザイク状に並んでいる様子。(c) 東京大学

画像6。KWFCの外観。(c) 東京大学

そしてKISSプロジェクトが2012年5月13日に発見した最初の超新星が、かに座の方向の約4億光年先にあるSN2012cmである。広島大学のかなた望遠鏡での追加観測により、この天体は超新星であることが判明し、国際天文学連合(IAU)への報告が行われ、2012年5月27日にSN2012cmと命名されたわけだ。SN2012cmは、爆発後10日経過したものであることも判明している。

その後、かに座の方向の約3億光年先に、爆発約5日後の発見となる「SN2012cq」(かなた望遠鏡、台湾国立中央大学鹿林天文台1m望遠鏡、ガリレオ3.6m望遠鏡で追加観測)、ヘルクレス座の方向の約5億光年先に、爆発約3日後の発見となる「SN2012ct」(台湾国立中央大学鹿林天文台1m望遠鏡、ガリレオ3.6m望遠鏡で追加観測)の2個も発見した(画像7・8)。

画像7。SN2012cq。左から順に2012年4月28日の画像、2012年5月14日の画像、これらを引き算した画像。(c) 東京大学

画像8。SN 2012ctの発見。左から順に2012年4月27日の画像、2012年5月22日の画像、これらを引き算した画像。(c) 東京大学

なお、探査の本格的なスタートは2012年秋で、その後3年間の観測を予定している。目標としては超新星を100個以上発見し、その中の数個の超新星に対しては、その爆発の瞬間をとらえることができるだろうという見通しである。

また、木曽観測所におけるもう1つの大規模観測プロジェクトである「天の川銀河面変光星探査」でも、順調に未知の変光星が発見されつつあるという。

そしてKISSプロジェクトでは、天文学に興味のある一般の方々との協力体制を組み、共同で研究を進めるという世界的にも珍しい試みも計画中だ。超新星発見までの過程において、研究グループは、画像同士の引き算を行い、引き算画像上に写っている天体、すなわち明るさの変化している天体を超新星候補とする。

しかし、この引き算画像には、本物の超新星以外に、宇宙線や引き算のミスなどの偽物が、本物の超新星よりも多く存在する。これらを人間の目でチェックし、本物だけを選び出す作業を、アマチュアチームによって行い、その結果を受けて、早急な追加観測を行うことを予定している。