Windows Vistaから導入されたWindows Aero。それまでLuna UIに慣れていたWindows XPユーザーには先進的なものに見えただろう。しかし、あれから六年の月日が経ち、半透明効果も陳腐化し始めたと考えるMicrosoftは、Windows 8における同機能のサポート廃止を公式ブログであるBuilding Windows 8で発表。その真意はどこにあるのだろうか。今週もMicrosoftの各公式ブログに掲載された記事を元に、Windows 8に関する最新動向をお送りする。

Windows 8レポート集

Windows Aeroを廃したWindows 8

OSにおけるUI(ユーザーインターフェース)デザインは非常に重要である。いくら設計思想が素晴らしくても、どれだけ効率的な機能を実装しても、UX(ユーザーエクスペリエンス)が悪くては意味をなさないからだ。GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を構成するパーツとして思い出すのは、ボタンやメニュー、テキストフィールド、ダイアログ……と枚挙にいとまがない。OS開発チームはこれらパーツを直感的に配置するのではなく、ユーザビリティを踏まえつつ一定のルールのデザインしてきた。

例えばAppleは「Introduction to Apple Human Interface Guidelines」と題したドキュメントを用意し、アプリケーションを開発する上でのルールを定義。MicrosoftはWindows Vista開発チームの一つであるWindows UXチームが「Windows User Experience Interaction Guidelines」と題したドキュメントを用意し、Windows Aeroに関するコントロールやメニューの概要を説明している。蛇足だが、Windows XP時代も同様のドキュメントは用意されており、「Windows XP - Guidelines for Applications」は現在でもWeb上からダウンロード可能だ(図01~03)

図01 Appleの「Introduction to Apple Human Interface Guidelines」はWeb上で閲覧可能

図02 Microsoftの「Windows User Experience Interaction Guidelines」。PDF上で閲覧できる

図03 タイトルのとおり「Windows XP - Guidelines for Applications」はWindows XP向けガイドとして2002年に公開されている

このようにOSのなかでも重要視されるUIデザインだが、Microsoftが最初のWindows 1.0をリリースしたのが1985年。かれこれ27年にもおよぶUIの改良を施してきた。図04から図08はWindows 1.0からWindows XPまでのデスクトップを並べたものだが、読者のなかにはWindows 3.xと格闘しながらコンピューターを仕事や趣味に活用してきた方もおられるだろう。

ここで注目してほしいのはUIデザインの移り変わりである。Windows 1.0からWindows XPまで並べると、ウィンドウフレームにタイトルとボタンを配置するといった基本的デザインに変化はない。UIデザインチームが時代ごとに可能な加工や配色を施し、リッチUIと呼ばれるような努力をしてきたのが見て取れる。

図04 PC-9801向けWindows 1.03日本語版。MS-DOS上で動くアプリケーションの一種にすぎなかった

図05 IBM-PC向けWindows 2.03。ウィンドウを重ね合わせるカスケード表示が可能になった

図06 Windows 3.1日本語版。DOSアプリケーションながらも、ファイルシステムやメモリ管理などは既に拡張されていた

図07 ご存じWindows 95。ここで<スタート>メニューという概念や本当のデスクトップUIが実装された

図08 今でも現役OSとして使い続けているユーザーが多いWindows XP。Lunaインターフェースが実装されたのは同OSから

大きく変化したのが、2006年にリリースされたWindows Vistaだ。ウィンドウフレームを半透明化したビジュアルスタイルを導入。これはWindows Aeroに含まれる機能の一つだが、この大きな改変について当時、Microsoftは「視線の動きを記録する装置を付けてWindows XPを使わせると、ウィンドウフレームが原色の場合はフレームに視線が動いてしまうため、作業効率が落ちてしまう。一方ウィンドウフレームを半透明化すると作業効率が数十パーセント向上した」と述べている(図09)。

図09 Windows Aeroにより、ウィンドウフレームの半透明化機能を実装したWindows Vista。この流れは現行のWindows 7にも受け継がれている

正しくはAero Glassと呼称されるこの機能を実装する理由を耳にした筆者は、確かに当初この説明をいぶかしんでいた。しかし、Windows VistaからWindows 7に移行したあたりから、ウィンドウフレームが半透明でないと全体がやぼったく感じるようになってしまったのが正直な感想である。そもそもWindows Aeroを実現するには、デスクトップの描画システムであるDWM(Desktop Window Manager)の存在が重要だ。同システムを端的に説明すると、それまで遊んでいたGPU(Graphics Processing Unit)をデスクトップ描画に活用するというもの。

その仕様変更に伴い、Windows 2000時代から使われていたクラシックUIは必然的にGDI(Graphics Device Interface)描画を用いることになるが、Windows Vista以降はGDIをCPU側で処理することになるため、同UIを選択するとパフォーマンスダウンを引き起こす原因となってしまう。つまり、同UIのメリットであった描画領域の確保とパフォーマンスダウンというデメリットのトレードオフが発生してしまったのだ。いずれにせよ当時は過剰供給気味だったハードウェアスペックを活用する技術としては有用といえるだろう。

話をWindows Aeroに戻そう。Windows XP時代はLuna UI、Windows VistaではWindows Aeroと切り替えてきたビジュアルスタイルだが、Windows 8ではWindows Aeroを廃止するという。その理由としてWindows UXチームのディレクターであるJensen Harris(ジェンセン・ハリス)氏はブログ記事で「Windows 8のデスクトップをMetro UIの美意識に近づけることに決めた」と述べている(図10~11)。

図10 Windows UXチームのディレクターであるJensen Harris(ジェンセン・ハリス)氏(画面は公式ブログの動画より)

図11 Windows 8ではWindows Aeroの半透明処理を廃止することが決定されたという(画面は公式ブログより)

同氏の記事を読むと、Metro UIのカラフルな配色と差別化するために、黒系のテキスト文字を引き続き使用しながらもウィンドウフレームの配色は白系に変更。それに伴いボタンやチェックボックスなどコントロール系アイテムの外見にも変更を加えているそうだ。筆者もWindows Aeroを廃したWindows 8の画面を見るのはこれが初めてだが、各所で立体感をなくし、平面的な印象を受ける。デザインセンスを持たない筆者があれこれいう問題ではないものの、このシンプルなUIがユーザーに受け入れられるかがWindows 8成功の大きな分かれ道となるだろう。